2018年09月14日 1542号

【非国民がやってきた!(289) 土人の時代(40)】

 イギリス政府に先住民族遺骨返還を要請したオーストラリア政府ですから、自ら返還作業に着手したのは当然のことです。

 博物館及び先住民族の共同体と協力して、「先住民族文化財返還計画」を策定しました。先住民族の遺骨及び聖物をこれへの文化的権利を保有する先住民族に返還することは政府の責任であり、文化省の委員会の任務です。オーストラリア政府が設立した博物館だけでなく、私立の博物館や海外の博物館の所蔵品についても調査・検討しなければなりません。

 各州から選出された博物館と先住民族の代表からなる運営委員会が、まず主要な国立博物館の所蔵品から、可能な場合に先住民族への返還を進めます。そのために博物館所蔵のすべての遺骨と聖物の出所・由来を確認し、すべての先住民族共同体に通知し、関連する共同体からの返還要求がなされた場合にこれに対処しなければなりません。

 返還計画のための財政はオーストラリア政府と州政府が負担します。返還計画は2005年12月に時限切れとなったと報道されましたが、2007年6月まで延長されました。ただし、財政の補充はありませんでした。しかし、環境・水・遺産・芸術局によると、2007〜08年、政府は今後4年間の総額約472万ドルの支出を決めました。

 オーストラリア国立博物館は多数の先住民遺骨を所蔵していましたが、その大半は旧オーストラリア解剖研究所が収集したものです。博物館が自分で収集したものではありませんが、1987年のアボリジニ及びトーレス・ストレート島遺産保護法のもとで収蔵品は法的規制を受けています。2000年にオーストラリア国立博物館は遺骨返還班を設置しました。博物館とアボリジニ及びトーレス・ストレート島委員会の財政によって返還計画を進めます。2008〜09年度年次報告書によると、この時期の財政は主に博物館自身の自前の財政で、「先住民族文化財返還計画」からも若干の財政が支出されました。

 博物館からの遺骨返還は厳密な政策に従って、伝統的所有者及び管理者への遺骨・美術品の無条件返還を行います。そのために正当な共同体・管理者を確認するための適切な調査を行います。請求者の同一性(正当性)が確認されれば、適切な共同体の要請に基づいて遺骨が返還されます。

 博物館の遺骨返還班は博物館所蔵の遺骨の返還だけでなく、他の博物館の所蔵品返還の調整も行うため、連邦、州、各地の文化遺産保有施設、先住民族共同体の間の調整を行います。

 博物館の遺骨返還は順調に進展し、年次報告書によると、北部領域、南オーストラリア州、ニューサウスウェールズ州、ヴィクトリア州の先住民族共同体に405体、2003〜04年度に132体、2004〜05年度に39体の遺骨が返還されました。また2003〜04年度に308の聖物がワシントン州に返還されました。

 海外からの返還については、家族・住居・共同体サービス・先住民族担当省が「国際返還計画」を進めています。その目的は、遺骨の出所・由来の確認、海外の遺骨目録の作成、先住民族共同体の返還希望の確認、共同体への返還事業、返還できない遺骨の保管・管理、返還後の保管施設・慰霊所・埋葬に関する支援等です。2000年以来、1000以上の先住民族遺骨がオーストラリアに返還され、2004年には18の施設から166が返還されました。しかし、事業は終了に至らず、900以上の先住民族遺骨が世界各地の博物館等に保有されています。

 遺骨返還問題に詳しい法律家のクレア・フェカートの論文は、政府・州政府・博物館側の返還事業の様子を明らかにしていますが、そこに至る先住民族共同体の返還要求運動のことは必ずしも明らかではありません。アボリジニ等の先住民族が国内で運動を始め、国内の博物館からの返還を実現するとともに、オーストラリア政府を動かして海外からの遺骨返還も実現した経過をもっと詳しく知りたいところです。アメリカその他の先住民族の権利獲得・擁護運動は1980年代から活発になり、2007年の国連先住民族権利宣言を実現する原動力となりました。先住民族の国際ネットワークとその運動経過については、別の機会に触れたいと思います。
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