2018年09月28日 1544号

【トリチウムで白血病増加 海洋投棄してはいけない】

 福島第1原発では冷却水と地下水が混ざり合って大量の汚染水が発生している。この汚染水は「放射性物質除去装置」にかけたあと「処理水」と称してタンクに貯蔵されているが、除去できないトリチウム(三重水素)やその他の放射性物質を含んでいる。貯蔵されている「処理水」はすでに100万立方メートルを超え、原発敷地内にはタンクが林立している。

 安倍政権はこのトリチウム汚染水を海洋投棄する方針を固め、8月末に福島県富岡町、郡山市、東京都の3か所で公聴会を開いた。

海洋投棄は「安全」?

 海洋投棄する論拠の一つに、現在も運転中の原発からはトリチウムが放出されていることがあげられている。

 経済産業省は「トリチウムは人体への影響がセシウムの700分の1程度」、「健康への影響は確認されていない」とし、原子力規制委員会は「薄めて告示濃度限度以下にすれば放出できる」という立場をとっている。トリチウムの排出については濃度規制(水中の場合、告示濃度限度は1gあたり6万ベクレル)だけで総量が規制されておらず、薄めればどれだけ流してもいいことになっている。

 だが、トリチウムによる健康被害が明らかになっている。米国イリノイ州では、トリチウム水を垂れ流す原発周辺に暮らす住民の脳腫瘍や白血病が30%以上増え、小児がんは約2倍に増えたと報告がある。

 また、佐賀県玄海原発周辺の白血病患者について、10万人当たりの白血病による死亡者数(2003〜2007年の平均)は全国5・8人だが、佐賀県全体では9・2人で、唐津保健所管内15・7人、玄海町38・8人と、玄海原発に近づくほど増加するという関連がみられる(渡辺悦司ほか『放射線被曝の争点』より)。森永徹・元純真短期大学講師の調査によると、玄海町の白血病死亡率は原発稼働の前後で4・5倍に増えたという。

加圧水型周辺で健康被害

 この原因と考えられるのが、トリチウムの取り込みによる内部被ばくだ。電力会社は「トリチウムは新陳代謝などにより普通の水と同じように排出されることから、人の体に溜まっていくことはありません」と説明している。

 だが、トリチウムは水の中の水素と化学的に区別がつかず、あらゆる有機化合物の水素がトリチウムに取り換えられる。米国の原発推進派の学会誌には「環境へ放出されたトリチウムは、有機物に取り込まれる可能性がある。その場合の有機物結合トリチウムは、トリチウム水より、かなり長い生体での残留時間を示す」と書かれている。

 たとえ薄めて海洋投棄をしても、食物連鎖などを通じて濃縮される。また、気化して水蒸気や水素ガスの形で陸地に戻り、環境中を循環する可能性も指摘されている。

 トリチウムの放出量は加圧水型原発(関西、四国、九州電力など)の方が沸騰水型原発(東京、東北、中部電力など)よりも桁違いに多い。白血病、循環器系疾患の死亡率はいずれも加圧水型原発の立地自治体の方が沸騰水型原発の立地自治体よりも多い傾向があり、トリチウム放出との因果関係が指摘されている(別表)。


線量が下がるまで貯蔵を

 今回投棄されようとしているトリチウムの総量は、公聴会で配布された資料によると約1千兆ベクレルとされるが、これは事故前に日本の全原発が1年間に放出していた総量の3年分にあたる途方もない量だ。

 これほどの量のトリチウムを薄めながらであれ海洋投棄すれば、健康被害が広がることは確実だ。

 汚染水は十分に放射線量が低くなるまで貯蔵・保管するしかない。公聴会では、石油備蓄に使われている大型タンクを利用する案も提案された。

  *   *   *

 公聴会では意見を述べた圧倒的多数が海洋投棄に反対だった。これは、公聴会だけの傾向ではない。朝日新聞社と福島放送が2月24日に、福島県民を対象に「処理水を薄めて海へ流すこと」の賛否を調査した結果、「反対」が67%で、「賛成」の19%を大幅に上回った。圧倒的多数の県民が反対しているのだ。

 政府は、公聴会での意見や福島県民の民意を受け入れ、海洋投棄を断念すべきだ。

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