2018年09月28日 1544号

【米国中間選挙 「トランプ流」に批判広がる/皆保険・教育無償化掲げる候補躍進】

 米国中間選挙(11月6日)まで2か月を切った。トランプ政権の2年に審判が下される。与野党逆転の可能性が見えてきた。予備選挙の中で、民主党内左派の勢いが増している。貧富の差の拡大に対し、金融投機を抑制し、医療・住居・仕事の権利保障を掲げる新人候補が選出されている。新自由主義に対する怒りは、トランプ流「愛国主義」ではなく、社会主義的変革を求めている。

大統領弾劾の可能性

 米国では、「11月第1月曜日の次の火曜日」が「選挙の日」と決められている。偶数年に、連邦議会下院全453議席、上院(定数100議席)の3分の1(今年は欠員2含め35議席)が改選される。4年に1度の大統領選の間に行われる中間選挙の結果は、政権2年の実績に評価を下す意味もある。

 今回、与野党の議席数がいつにも増して注目されるのは、多くのスキャンダルにまみれたトランプ大統領の弾劾裁判につながるからだ。米憲法では、下院が過半数の賛成で大統領の弾劾訴追をし、上院の3分の2が同意すれば有罪、解職できる。現在、野党民主党は下院で46議席、上院で2議席少ない。上院で3分の2を占めるのは無理としても、下院での逆転は可能とする報道が増えている。8月末から9月にかけて行われた各種世論調査を平均すると民主党48・8%、共和党40・5%。8・3ポイントの差がでている。

民主主義的社会主義

 すでに各州での予備選は終了し、本戦候補が出そろった。アリゾナ州の上院予備選では「女トランプ」と異名をとる強硬派が落選するなど、共和党内部でトランプ離れがみられる。一方、民主党内では民主主義的社会主義者のバーニー・サンダースのグループが躍進している(彼自身、バーモント州上院予備選で94・4%得票、本選に進む)。

 その象徴的な存在が、ニューヨーク州第14選挙区の下院候補として選出されたアレクサンドリア・オカシオコルテス(28歳)だ。彼女が争ったのは、10期連続当選の現職ジョセフ・クローリー。民主党内の次期院内総務候補と目される重鎮だった。オカシオコルテスはサンダースの大統領選スタッフとして活動したことから、立候補に至った。大学卒業後も仕事をかけ持ち。自宅が競売にかけられそうになる経験も持つ。下院立候補にあたって彼女は「〝人びと対お金〟の選挙戦」だと語っている。「この地域に必要なのは、医療保険、授業料無償の公立大学、雇用保障、刑事司法制度の改革だ」。彼女は「民主党員はみな同じではない」とも語っている。ウォール街(金融資本)と関係を持ち、企業献金を受け取る現職議員との違いを強調した。医療保険制度改革は、民間保険会社から献金を受けていてはできない。住宅の差し押さえから利益を得ているようでは、住宅保証はおぼつかない。

 彼女は「アメリカ民主主義的社会主義者(DSA)」に属している。その理由を問われ「モラルある豊かな現代社会において、すべての人が十分に教育を受け、医療の機会や住居を得られること。基本的な経済的社会的尊厳を強く主張する組織や政党は他にない」と答えている(選挙公約別掲)。貧富の差を拡大する新自由主義に対する真正面からの闘いを意味する。

若者の支持が拡大

 今、米国内では若者らを中心に社会主義者グループが数多く生まれていると言う(8/23毎日)。社会主義を掲げる最大の団体がDSA。16年の大統領選でバニーサンダース支援運動の中で急拡大。それまで約5千人程度だった会員は今5万人近くまでになった。「社会主義を好ましい」経済体制と見る若者(18~29歳)の割合は55%に達する。この傾向は、オカシオコルテスだけでなく、各地で進歩的左派候補を誕生させている。

 ミネソタ州下院5区の予備選でソマリア難民出身のイルハン・オマールが48%を獲得し勝利した。ウィスコンシン州下院1区では鉄鋼労働者出身のランディ・ブライスが勝利。共和党ライアン下院議長の引退に伴う議席獲得を目指す。マサチューセッツ州下院予備選では、10期目の現職をアヤンナ・プレスリーが破った。共和党候補がいない選挙区であり、同州初のアフリカ系下院議員が誕生する。

 リーマンショックから10年。グローバル資本の貪欲なふるまいは規制されることなく、ますます貧富の差を拡大し、99%の市民に犠牲を強いている。人として基本的な尊厳が守られる政策を掲げる民主主義的社会主義者グループへの期待は高い。

オカシオコルテスの選挙公約(要約)
1 すべての人に低廉な医療保険を
2 権利としての居住保障を(低所得者住宅税控除の拡大など)
3 平和的な経済政策(軍隊の撤退、軍事介入をやめ軍事費削減など)へ
4 雇用保障(最低賃金15ドル、健康管理、育児・病気休暇など最低基準を定める)
5 銃規制、攻撃武器禁止へ
6 刑事司法制度改革、営利目的の民間刑務所の終了
7 移民の市民権・家族の権利擁護/移民税関捜査局(ICE)の廃止
8 台風被害にあった米自治領プエルトリコの支援・連帯を
9 気候変動に対処(無炭素化、100%再生可能エネルギーへの転換など)
10 選挙資金の透明化、企業利益のためのキャンペーン財政法を改正
11 すべての人に高等教育/専門学校を(公立大学の授業料無償化など)
12 女性の権利擁護(男女均等雇用・賃金の立法化など)
13 LGBTQIA+(性的少数者の総称)の支援(差別を違法とする平等法制定など)
14 高齢者の支援(年金額の引き上げ、医療保険の拡大、居住の保障など)
15 金融街の投機抑制:グラス・ステーガル法(銀行による証券業禁止など)の復活

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