2018年09月28日 1544号

【北海道大地震 全道停電=ブラックアウトの背後に 電力失政と北電の利益至上】

 9月6日未明、震度7の強い揺れが襲った北海道胆振(いぶり)東部地震で、北海道全域が停電。泊原発(泊村、停止中)でも一時、外部電源が喪失し、非常用ディーゼル発電機を使って燃料プールの核燃料を冷却する事態になった。全域停電は札幌市中央区などが最初に復旧する6日正午過ぎまで9時間にわたって続いた。地域電力会社の営業区域全体が停電したのは、現在の10電力体制になって初めてだ。なぜこんな事態が起きたのか。

安定供給よりカネ

 北海道では発電量全体の85%を石炭・石油火力発電が占める。その発電量(406万kw)の4割にあたる165万kwの発電能力を持つ苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所は震源地のほぼ真上に位置する。この発電所が地震の直撃を受け、損傷して停止したことが大停電のきっかけだ。一部地域を強制停電させ、最低限の給電を維持することにも失敗。稼働中の他の3火力発電所では総需要をまかなえず、連鎖的に停止していった。

 北海道電力の真弓明彦社長は6日午後の会見で「すべての電源が停止するのは極めてレアなケース」と釈明したが、電力供給に詳しい阿部力也・元東京大学大学院特任教授は「今回のような大規模な連鎖停電事故は事例も多く、十分想定できた」と北電発表に疑問を呈する。

 阿部元教授は、北電が全発電量の4割を苫東厚真火力発電所に依存してきた理由について「数十万kw程度の発電所にしてリスクを分散しておけば全域停電は避けられるが、大きな発電所のほうが電力会社にとってコストが安いからだ」と指摘する。自然災害が多発する中、コストのかかる電源分散を避け、必要な設備投資よりも目先のコスト削減を優先する北電の「安定供給よりカネ」体質が大停電を招いたのだ。

想定外にあらず

 「例えば、北海道電力の最大ユニットが脱落した場合、北海道電力エリア内の周波数が大きく低下。この際、北海道エリアの系統規模を踏まえれば、この脱落に対して、周波数を維持できない」。2013年12月に経産省が開催した「総合資源エネルギー調査会第4回制度設計ワーキンググループ」の資料にこのような記述がある。地域ごとの電力のアンバランスを調整するため、電力業界に全国ベースで電力の需給調整を義務付ける電気事業法改定が行われた。改正法に基づいて設立された需給調整のための組織「電力広域的運営推進機関」の運営方針を決めるための会議資料だ。国は5年も前に今回の事態を正確に見通していたのだ。

 今回の大停電をきっかけに、6年以上停止している泊原発の再稼働を主張する声がネットを中心に出されている。ほとんどが電力業界とつながる御用経済評論家やジャーナリストによるもので、危険な原発を「安定電源」などと決めつける無根拠なものだ。

 そもそも泊原発が再稼働できないのは、原子力規制委員会が求める再稼働に向けた審査の条件を北電が満たせないからだ。規制基準すら満たさない原発を「電力不足解消」のため動かせというなど、北海道民に対する犯罪である。

原発は論外、廃止しかない

 泊原発が稼働していれば大停電は起きなかったという主張もでたらめだ。原発が動いていれば、北電はその分、火力発電所の発電量を下げるだけ。大停電の結果は同じだ。

 大停電復旧直後から政府が仕掛けた計画停電キャンペーンも「努力要請」に緩和された。現在、北電が石狩湾新港に建設中の新LNG火力発電所1号機(約57万kw)は10月中にも試運転公開できる段階に来ており、来年2月予定の運転開始の前倒しも可能だ。

 北海道の電力ピークは1年で最も寒くなる1月の夕方で、約510万kwだ。泊原発(約200万kw)が稼働しなくても北電の発電能力は400万kwある。石狩湾新発電所1号機を加えれば約460万kw。苫東厚真を部分的に復旧させつつ、1割程度の節電で十分乗り切れる。地震以降、北海道では市民・企業の節電努力ですでに1割節電を達成している。計画停電も泊原発再稼働も不要だ。

 今回の北海道大停電は、国による電力失政と北電の「安定供給よりカネ」経営のツケを道民と道内企業が支払わされた形だ。「電力不足」に乗じたこれ以上の失政付け回しと泊原発再稼働を許さず、政府・北電の責任を追及しよう。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS