2018年10月19日 1547号

【小川榮太郎とは何者か/悪質記事は『新潮45』だけではない/安倍が育てた言論ヤクザ】

 LGBT(性的少数者)への差別と偏見に満ちた記事が大批判を浴び、事実上の廃刊に追い込まれた『新潮45』。だが、ヘイト論文の執筆者たちは「組織的圧力による言論弾圧だ」と居直る始末。その代表が文芸評論家を自称する小川榮太郎である。最も悪質な差別文章を書いたこの男、正体は安倍晋三首相の身内というべき御用ライターであった。

嘘と差別のてんこ盛り

 問題の発端は、LGBTを「子どもをつくらない、つまり生産性がない」として行政支援の必要はないとする杉田水脈(みお)・衆院議員(自民党)の寄稿を8月号掲載したことだった。批判と抗議の広がりを『新潮45』は「見当外れの大バッシング」と受け止めたようで、10月号で杉田擁護の特集を組んだ。

 計7本の寄稿文のうち、特にデタラメなのが小川榮太郎の一文である。小川は、LGBT当事者の生きづらさよりも「痴漢症候群の男の困苦」こそが根深いと主張。「再犯を重ねるのはそれが制御不可能な脳由来の症状だという事を意味する。彼らの触る権利を社会は保障すべきでないのか」と綴った。LGBTの権利保障は痴漢の触る権利を認めるのと同じことだというのである。

 差別と偏見、明らかな間違いのてんこ盛り。文芸評論家の肩書が泣く、便所の落書き以下の妄言というほかない。こんな文章を世に出した新潮社の責任は重い。

 さて、小川榮太郎とは何者なのか。小川の作家デビュー作は2012年9月に出版された『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)である。このほかにも『徹底検証「森友・加計事件」―朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)や、『徹底検証 安倍政権の功罪』(悟空出版)といった“安倍礼賛本”の執筆者として知られる。

 そう、小川榮太郎は「チーム安倍」として活動してきた御用ライターなのだ(『新潮45』のプロフィール欄には安倍のアの字もないが…)。その役割は「安倍スゴイ」を恥ずかしげもなく連発すること。そして、安倍政権及びその政策を批判する者を「言葉の暴力」で攻撃し、黙らせることにある。

安倍事務所が爆買い

 もともと小川は「安倍晋三再生プロジェクト」なる秘密会に参加しており、そのつてで前述の『約束の日』執筆者に起用された。この本を安倍の資金管理団体である晋和会は政治資金を使って大量購入した(わざわざ複数書店で買い漁った)。ベストセラーに押し上げ、安倍再登板要望論が高まっているように見せかけるためだ。

 昨年10月の衆院選に合わせて出版された『徹底検証「森友・加計事件」』も組織買いが行われた。自民党はこの本を5千部以上購入し「安倍総理への疑惑払拭」に活用したという。しかも、投票日直前に全国紙や電車の中吊り広告等で大々的に宣伝された。書籍広告が安倍自民党の選挙PRの役割を果たしたのだ。先日の自民党総裁選でも同じ手口が使われた。

 小川の安倍親衛隊ぶりは御用ライターの活動だけではない。2015年には「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体を事務局長として立ち上げ、『報道ステーション』や『NEWS23』などを「放送法違反の偏向報道」と指弾してきた。「安倍批判をすれば叩くぞ」と、テレビ局に脅しをかけたのである。

過労死家族にも悪罵

 社会的に抑圧された者が権利を主張することを、小川は「弱者利権」と呼んで罵倒する(彼が擁護する杉田水脈もそうだ)。特に、安倍政権が進める政策を批判する人びとに激しい攻撃を加え、心まで砕こうとする。

 その典型が、広告代理店・電通の社員だった高橋まつりさんが過労自殺した事件についての寄稿文だ(『月刊Hanada』17年3月号)。いわく「この程度のことを企業犯罪呼ばわりされて大会社の社長が引責していたら、総理大臣から会社の社長まで、責任ある立場の人間は毎日のように引責辞任しなければならなくなる」。

 さらに、悲劇をくり返すなとの思いで労働法制改悪に反対する高橋さんの母親に信じがたい暴言を浴びせた。「なぜこの人は、娘の死を社会問題などという下らないものに換算しようとするのか」「死を利用して、日本の労働慣習を脅し上げるなど、見当違いも甚だしい」と。

 人間性を疑う下劣な文章だが、これが安倍一派の本音なのだろう。「働き方改革」と称した労働法制改悪を進めるにあたり、目障りな過労死家族を黙らせたい。そうした親分の意図を汲み、小川は「言葉の凶刃」を振るった。まさに安倍晋三子飼いの言論ヤクザというほかない。

   *  *  *

 『新潮45』が極右路線に舵を切ったのは、部数低迷を打開するためだと言われている。安倍一派が好む論考をネトウヨ業界の売れっ子である杉田水脈や小川榮太郎に書かせれば、自民党議員や安倍信者が大量購入してくれると目論んだのだろう。安倍政権は悪質な差別ビジネスの元凶にもなっているのである。 (M)



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS