2019年01月18日 1559号

【安倍が煽る「日韓対立」/「レーダー照射」問題を劇場化/韓国ヘイトで狙う支持率回復】

 韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の哨戒機に火器管制レーダーを照射したとされる問題をめぐり、日韓両国政府の対立が激化している。本来この一件は、事実関係を冷静に突き合わせて解決すべき問題であろう。ところが、安倍政権は対立をあえて劇場化している。嫌韓ムードの高まりをテコに、政権浮揚を狙っていることは明らかだ。

どう見ても過剰反応

 「火器管制レーダーを照射したことは危険な行為であり、再発防止策をしっかりやってもらいたい」。安倍晋三首相はテレビ朝日のインタビュー(1/1放映)でこう述べた。

 その翌日、韓国外務省は声明を出して反論。レーダー照射をあらためて否定すると同時に「人道的な救助活動を行っていた我が国の艦艇に対し、自衛隊の哨戒機が威嚇的な低空飛行をした」として、日本側に謝罪を要求した。

 韓国軍艦艇は火器管制レーダーを照射したのか、自衛隊機は威嚇的な飛行をしたのか、両国政府の主張は真っ向から対立している。双方が自説を正当化する映像を公開したものの、いずれも決定的な証拠とは言いがたい。

 火器管制レーダーの照射は、相手に銃口を向ける行為に等しいと言われる。艦対空ミサイルなどの誘導弾はレーダービームが攻撃目標に反射し返ってくる電磁波に導かれて飛んでいく。攻撃に必要な行為であることは間違いない。

 とはいえ、今回の事例に関して言えば日本政府の反応は大げさすぎる。安倍親衛隊の山田宏・防衛政務官は「我が国を威嚇し、自衛隊員の生命を危険にさらす行為で許しがたい。味方と思ったら背中から打つような行為」と非難するが、韓国軍に攻撃意思がないことは明らかだ。

 実際、防衛省が公開した映像をみると、「砲はこちらを向いていない」などの音声を通じて、海自機の乗組員が韓国軍艦艇の行動に明白な敵意を感じておらず、落ち着いて対応していることがわかる。ちなみに日本はロシアとの間で、軍事衝突につながりかねない危険行為を禁じた海上事故防止協定を結んでいるが、火器管制レーダーの照射は禁止項目に入っていない。

 そもそも、レーダー照射の疑いがあるなら、互いが把握している事実を突き合わせ真相を究明するのが筋である。メディア映りを意識した宣伝戦を繰り広げても再発防止には何ら寄与しない。

仕掛けたのは安倍

 はっきりしているのは、この一件の政治問題化は安倍政権が仕掛けたということである。報道発表を一方的に行い、韓国批判をぶち上げたことがそうだし、映像公開によって「韓国は嘘つき」との世論を醸成し、実務協議での事態収拾を不可能にした。

 報道によると、映像公開は安倍首相が渋る防衛省を押し切るかたちで行われたのだという。「防衛省は当初、映像公開について『韓国がさらに反発するだけだ』(幹部)との見方が強く、岩屋毅防衛相も否定的だった。複数の政府関係者によると、方針転換は27日、首相の『鶴の一声』で急きょ決まった」「(徴用工判決や元『慰安婦』支援財団の解散をめぐり)首相は『韓国に対し相当頭にきていた』(自民党関係者)という。そこに加わったのが危険な火器管制レーダーの照射。海自機への照射を否定する韓国の姿勢に、首相の不満が爆発したもようだ」(12/28時事)

 記事を補足すると、防衛省は韓国との軍事協力関係に亀裂が入ることを懸念したのだろう。おりしも、日本と韓国が軍事情報を共有するための軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を1年延長する方針を韓国国防部が決めたばかり。韓国内には根強い反対意見があるだけに、防衛省としてはレーダーの件で韓国世論をこれ以上刺激したくないとの思惑があったはずだ。

 しかし、安倍官邸は自らの延命策を優先した。メディアを使って「日韓対立」を劇場化し、安倍首相自らが韓国糾弾の先頭に立つ。この演出により、内閣支持率のV字回復を狙っているのである。

卑劣で危険な策動

 報道各社の12月世論調査をみると、内閣支持率・自民党支持率ともに低下している。内閣支持率は前月比で軒並み4〜6ポイントのダウン。朝日新聞、毎日新聞、共同通信の調査では不支持率が支持率を上回った。

 しかも政府肝いりの政策がそろって不評だ。その傾向は御用新聞筆頭の読売新聞の調査でもはっきりあらわれている。「外国人材の受け入れ拡大」と称した入管法改定については「評価する」37%に対し「評価しない」48%。沖縄辺野古への土砂投入については「賛成」36%、「反対」47%。水道民営化を推し進める水道法「改正」への反発も強く、「反対」60%が「賛成」27%を圧倒した。

 そのうえ、内閣支持率とともに政権の命綱である株価が大幅に下落している。このままでは春の統一地方選、夏の参議院選挙での苦戦は必至。改憲発議どころか、その前に政権の命運が尽きる公算が強くなってきた。

 まさに大ピンチの安倍政権。そこで連中がすがったのが、外敵をでっちあげ内政への不満をガス抜きする古典的手法だったというわけだ。元徴用工裁判をめぐり、原告側が新日鉄住金の資産差し押さえを申し立てたことへの「具体的対抗措置」を関係省庁に指示したのも同じ狙いからだ。

 排外的なナショナリズムを煽動し、韓国ヘイトを政権延命に利用する。この卑劣かつ危険な策動に踊らされてはならない。      (M)



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