2019年02月08日 1562号

【毎月勤労統計不正調査はなぜ/「アベノミクス神話」演出に一役】

 毎月勤労統計不正調査・データねつ造問題が波紋を広げている。不正は十数年にわたって続いていたとの報道もあるが、安倍政権下では「アベノミクス」偽装に使われていた疑いも浮上。不正を知りながら安倍政権は「政策実現」の宣伝に利用していたのだ。

重要な毎月勤労統計

 毎月勤労統計は「賃金、労働時間及び雇用の変動を明らかにすること」(厚生労働省)を目的に、統計法に基づいて行われている統計調査だ。1947年制定の旧統計法では「指定統計」として、また07年に全面改正された新統計法でも「基幹統計」として国の最重要統計に位置づけられる。賃金、雇用の全国的動向を調査する全国調査と、都道府県ごとの動向を調査する地方調査が二本柱だ。月例経済報告、景気動向指数などの経済分析などのほか、国民生活に関わりの深い雇用保険や労災保険給付額の決定、平均賃金の算定、建設工事労務単価の策定などあらゆる政策の基礎資料として使われている。

 東京都内で労働者500人以上を雇用する事業者は全数調査としなければならないのに、全体の3分の1しか調査対象にしていなかったことが今回明らかになった。

 毎月勤労統計は、調査票に男女別労働者数、出勤日数、労働時間数、給与額を毎月記載させるものだが、調査対象企業にとって負担を覚えるようなものではない。調査票は数時間もあれば記入を終えられる程度のもので、残業時間については残業手当支給時間を回答すればよいからだ。いわゆるサービス残業(タダ働き)については、労働者を対象に実際の労働時間を回答させる「労働力調査」が別にあり、国は、この2つの調査における労働時間の差をサービス残業時間としてその実態把握にも活用してきた。

賃金を低く操作

 労働者数の多い企業は大企業であり、賃金水準も一般的に中小企業より高い。その大企業の調査対象数を減らせば、当然ながら賃金は実態よりも低く算定されることになる。

 大企業と中小企業で賃金水準はどの程度違うのか。それには国家公務員の給与改定を年1回政府に勧告するための機関である人事院の「民間給与実態調査」が参考になる。「大卒事務員」の初任給で見ると、労働者500人以上の企業が20万5千円、50人以上100人未満の企業は19万7千円。その差は8千円(約4%)にも及ぶ。大企業の調査対象を意図的に減らし、平均賃金を下げることで、国は社会保障給付を削減できる。長年にわたる不正はこうした「効果」を発揮した。

成功宣伝に逆利用

 毎月勤労統計の不正に「気付いた」安倍政権は、統計結果を「補正」するとして昨年1月から3分の1に減らした調査結果に3をかけて全数調査値をねつ造。もちろん何の根拠もないでたらめな数字操作だ。この結果「賃金水準」が急に高くなり、安倍政権は「アベノミクスの成果」を大宣伝した。

 毎月勤労統計が明らかにしているのは名目賃金であり、物価上昇率を加味した実質賃金ではない。一般的に、名目賃金が実質賃金を上回るときはインフレ、その逆がデフレというのは経済学の常識だが、インフレ目標2%を掲げ、賃金・物価の上昇と「経済成長」をアピールしたい安倍政権にとって、名目賃金を高く見せられる毎月勤労統計の「補正」処理は好都合だった。

 だが、このような数字操作で名目賃金をかさ上げしなければインフレを「作り上げる」こともできないほど日本の物価上昇は緩やかだったことになる。デフレ経済脱却という日本政府の政策目標が依然として遠いことを示している。


広がる貧富の格差

 一方、デフレといわれているにもかかわらず、この間、円安などが原因で食料品や燃料費など生活必需品の価格は上昇してきた。にもかかわらず、国の統計で物価上昇がほとんど見られなかったのは、家電製品など高額品の価格が横ばいまたは値下がりを続けたからだ。生活必需品の値上げが労働者や貧困層を直撃する一方、富裕層が多く消費する高額品価格が下落を続けたことで貧富の格差はさらに拡大した。

 労働者の賃金は20年近く下落を続けたまま労働者の総貧困化も進んだ。ただでさえ低い労働者の賃金がより低くなるよう勤労統計が改ざんされ、その数字を基に社会保障給付も不当に切り下げられた。国民の購買力はますます低下し、経済が悪化するデフレスパイラルに落ち込んでいった。過去十数年に及ぶ統計不正、そしてそれを是正するための再調査ではなく、デタラメの数字操作で「アベノミクス大成功」と宣伝する安倍政権の姿。「平成の日本経済の真実」だ。

 安倍政権が克服を目指したデフレは歴代の自民党政権が作り出したものだ。過去の政策の全面的反省と見直しなくして脱却などあり得ないのである。

 28日召集の通常国会はこの勤労統計不正問題で幕を開ける。アベノミクスのごまかしを暴き、統一地方選、参院選から安倍政権打倒につなげる1年にしなければならない。
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