2019年02月15日 1563号

【日経連特別委報告批判/「官製春闘」さえ否定/ むきだしの資本の論理/賃上げしない、内部留保はさらに拡大】

 日本経団連は1月22日、2019年春闘に対する経営側方針である「経営労働政策特別委員会報告」(以下「報告」)を発表した。安倍政権の賃上げ要請を受けるいわゆる「官製春闘」を否定し、賃上げはしない、内部留保をさらに増やそうというのだ。「アベノミクス」は財界からも相手にされなくなった。

生産性向上が先

 今年の「報告」の第1の特徴は、「経営側の基本スタンス」として「そもそも賃金の引上げは、政府に要請されて行うものではない」「労使による徹底的な議論を経て企業が決定することが、労使自治と労使関係の更なる深化の観点からも重要である」と主張していることだ。

 東レ出身の榊原定征・前経団連会長は、「アベノミクス」を取り繕うように賃上げ要請を続ける安倍首相に配慮して14年以来、いわゆる「官製春闘」による一定の賃上げを容認してきた。昨年の「報告」の中では「3%の賃金引上げ」との安倍発言を引用していた。

 しかし、今年の「報告」にはそのような記述は無く、賃上げできるのは「生産性向上により、収益が安定的に拡大している企業」の場合だと強調し、「官製春闘」を否定。日立製作所会長の中西宏明が経団連会長に就任し、金属大手が主張する「労使自治論」が前面に押し出されてきた。

 「賃金決定の大原則」は「適切な総額人件費管理の徹底」が前提であり、「所定内賃金引上げにはその1・7倍の費用がかかり、翌年以降に累積していく」として、賃金水準の引上げに厳しい警告を発している。結局「一時的な収益の拡大に対しては、業績や成果・貢献度に応じて賞与・一時金としての社員への還元」へと誘導。賃上げ抑制を露骨に示すものだ。

世界の潮流に逆行

 第2の特徴は、最低賃金引上げに対する強い嫌悪感の表明である。最低賃金改定時点で改定後の最低賃金を下回る賃金で働いている労働者の割合を示す「影響率」が、全国平均で12年度4・9%であったのが17年には11・8%に上昇したことを捉えて、「年を追うごとに状況は悪化している」「中小零細企業への深刻な影響が懸念される」となげいてみせる。

 これは世界の潮流に逆行するものだ。アメリカの最低賃金は、ワシントンDCの時給12・5ドル(1415 円)を筆頭に、14の州で時給10ドル(1132円)以上に、カナダも18年には時給千円を超え、さらに21年には、1358円に上昇する。イギリス、フランスおよびドイツは、17年時点ですでに時給千円を超えているが、さらに、18〜20年に、イギリス1187円、フランス1329円、ドイツ1257円まで上昇する。韓国は17年には日本を24・3%下回る時給642円であったが、19年に825円に引き上げられる。韓国には「週休手当」と言われるものがあり、それを加えると時給は991円となり、日本を超える。

 格差の拡大、貧困層の増大の下で、最低賃金の引き上げが世界の潮流。経団連は全く正反対の方向を向いている。

「待遇改善」に抜け道

 第3の特徴は、安倍政権による「働き方改革関連法」を解説し直し、重要点を再度強調していることだ。

 「働き方改革は長時間労働の是正だけが目的となってはならない。…労働生産性を高め、企業価値と競争力の向上につなげていくことが重要である。そのためには、例えば、高度プロフェッショナル制度や裁量労働制度、テレワーク等の導入・拡充により、時間や場所にとらわれない働き方を進める…」という。

 高度プロフェッショナル制度や裁量労働制度、テレワークは残業代ゼロ・過労死の温床であり、経団連の本音は長時間労働の維持・拡大であることが見て取れる。派遣労働者の待遇決定方式にも数ページを割いて経営者にとるべき方法を指南している。

 20年4月1日から、派遣労働者の待遇決定方法については、(1)派遣先の労働者との均等待遇・均衡待遇(派遣先均等・均衡方式)か、(2)派遣元における労使協定に基づく待遇(労使協定方式)のいずれかの実施が派遣元に義務付けられる。(1)を採用する場合、派遣先は同種の業務に従事する自社の労働者に関する待遇情報をすべて派遣元に提供しなければならない。(2)の労使協定で定める賃金は「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準以上」(明確な基準が無い)とされている。つまり派遣先企業にとっては、派遣労働者の賃金を低く抑えられる(2)の方式が有利になるわけだ。

 この点を「報告」では念押し、「派遣元労使協定方式を希望する企業は、施行日より前から、適法な労使協定を締結した派遣元から派遣労働者を受け入れる必要がある」と、安倍政権が準備した「同一労働同一賃金」の抜け道を解説し企業にアドバイスしているのだ。

さらに溜め込む

 最後に、巨額の内部留保。「報告」では利益剰余金は12年度の304兆円から17年度には446兆円へと、わずか5年間で142兆円も増えたことを認めている。昨年の「報告」は、「過剰に増やすようなことがあれば、投資家の視点から決して許されない」と書いていた。ところが今年は、「人財への投資」へ活用するという表現も消え、「適正な水準の内部留保を確保することの重要性が一層高まっている」とさらに貯め込むことを宣言している。

 まさに彼らの嫌がる巨額内部留保を賃金水準引き上げに使わせること、最低賃金引上げこそが格差と貧困解決の鍵である。最低賃金1500円実現に向けて奮闘しよう。
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