2019年04月12日 1571号

【ドクター林のなんでも診察室 失われることのなかった子どもの命】

 3・11大震災そして原発事故の時に生まれたお子さんも、小学2年生になります。多くのお子さんが様々な困難に直面され、長期の避難も加わり厳しい生活をされているかと心が痛みます。

 福島ではすでに215人のお子さんが甲状腺がんと診断され、178人が手術を受けています。あまりにも明白なこのがんの異常多発でさえ、政府はその隠蔽のために、学者たちを使い嘘の論文を多数発表させ、科学的分析の邪魔をしています。

 極めて残念なことですが、甲状腺以外のがんや様々な健康障害の増加も予想されます。

 忘れられているのが、放射線被曝で最も障害を受けやすい妊娠や胎児などへの影響です。

 私たちは、ドイツの著名な研究者と出産前後1週間の時期に亡くなったお子さん(周産期死亡)の率を計算しました。それによれば、事故後10か月以降、福島・群馬・茨城・岩手・宮城・栃木の6県で、実に15・6%、東京・千葉・埼玉の3都県でも6・8%増加。事故以前の周産期死亡者数から推定すると、増加した死亡人数は、2012〜14年の3年間で先の6県では165人、3都県で153人、計318人でした。その後の研究では、15年までの4年間での妊娠12週から生後1年未満での周産期も含めた「早期死亡」の増加数は1140人です。もし、事故がなければ失われることはなかった胎児や乳児の命がこれほどまでに奪われたのです。

 さらに直近の計算結果でも、周産期死亡は17年末まで同様の増加があり、減少する気配を見せていません。先の「早期死亡」数は8年間ではその倍の2000人以上と考えられます。原発事故後8年間で、妊娠12週から1才までに余分に℃亡した人数は、震災での0才から9才までの直接死亡数562人の4倍近くになるのです。

 胎児や乳児の死亡は、夫婦と家族全体に多大な苦しみを与えても、科学的調査分析がなければひそかに隠されてしまいます。しかし、放射線被曝が胎児・乳児により深刻な影響を与えうることは過去の多数の研究からも明らかなものです。病院の放射線検査室に、普通は妊婦が近づけないのはそのためです。しかし、対政府交渉での私たちの研究に基づいた全交(平和と民主主義をめざす全国交歓会)の追及に、政府は多額の金を使った全く非科学的な環境省調査などで事実を隠そうとしています。

 11都県という広範な地域で観察されたこの障害は、決して過去のこととして片付けられません。障害は次世代に引き継がれることがあるからです。

 原発事故9年目を迎え、これ以上、子どもたちに重荷を引き受けさせないために、莫大な軍事費を、原発廃炉と被曝対策、被害者救済に向けるべきだという思いをいっそう強めました。

     (筆者は小児科医)
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