2019年04月26日 1573号

【大阪維新の勝利・都構想の疑問に答えます/不満をからめとる「改革」幻想/大規模開発への財源確保が狙い】

 大阪の知事・市長選挙(4月7日投開票)で地域政党「大阪維新の会」の吉村洋文・松井一郎がそれぞれ当選した。維新は選挙勝利を足掛かりに、自民・公明両党の反対で頓挫した都構想を再び住民投票にかけるつもりだ。百害あって一利なしと本紙上で批判してきた都構想だが、読者から質問が寄せられた。「何が問題なのか。なぜ維新は支持されるのか」。選挙結果を受け、改めて考えてみる。

維新圧勝はなぜ?

 選挙結果は、知事・市長だけでなく、府議会では維新が過半数を占め、市議会ではあと2議席で過半数となる第1党。維新圧勝です。

 今年3月、都構想の住民投票を法定協議会で否決された知事だった松井は「死んでも死にきれない」と大仰なセリフを吐いて、市長吉村とともに辞職し、クロス選に打って出ました。その時、勝利の確信はなかったはずです。自民党の独自調査では維新劣勢(3/21日刊ゲンダイ)でした。公明党との2年前の密約(任期内住民投票実施)まで暴露するなど破れかぶれ。「裏切られた」と罵り合う泥仕合。自・公との対立は決定的でした。

 政党の組み合わせでは維新対反維新の構図は明白。ですが投票は違った展開に。出口調査によれば、自民党支持者の5割、公明党支持者の2割が維新に投票しました。公明党山口代表は一度も応援に来ませんでした。改憲勢力に亀裂が入るのを避けたい安倍政権は維新勝利を望んでいました。官邸を訪問した自民党の知事・市長候補に菅官房長官は会いません。選挙結果に「『蜜月』官邸に安堵感」(4/8朝日)とまで書かれています。

 党利党略、利権絡みでは維新に分があったのでしょうが、問題は無党派層の6割(共産党支持層の3割)が維新を支持したことです。

 今回、維新のキャッチフレーズは「大阪の成長を止めるな」。維新は独自調査で街頭演説のキーワードとストーリーを統一したといいます(4/9朝日)。「都構想は将来にわたって成長を続けていくための制度」「社会保障費を成長で生み出す」

 「ウソでしょう」。即座にそう言える人は維新には投票しません。やはり維新のウソに「改革への期待」を寄せる人が多かったのでしょう。

 維新への幻想を打ち消すために「都構想」の狙いは何か、もう一度強調しておきます。




都構想で変わるのは?

 大阪市のまとめた都構想案は今ある24行政区(人口270万人)を4つの特別区(人口は50万人〜80万人)に統合するものです。

 地方自治法では、自治体を身近な行政サービスを提供する市町村(基礎自治体)と広域行政を担う都道府県(広域自治体)に分けています。大阪市のような指定都市(人口50万人以上)は基礎自治体ながら広域行政の一部を行うことができます。逆に特別区は基礎自治体のもつ権限の一部が制限されます。市町村より立場が弱くなるのです。

 財源が問題です。市町村の収入となる法人住民税や固定資産税など5税は、特別区は徴収できません。代わって府が徴収し、その一部を財政調整交付金などとして分配します。特別区が直接徴収できる税(自主財源)はかなり減少します(図)。大阪市の試算では税収6600億円のうち4900億円、実に4分の3が府に吸収され、自主財源として残るのは特別区民税など1700億円です。

 大阪市が実施している3000近い事業のうち410事業が府に移されますが、特別区は市が持っていた権限と財源をなくすことになります。維新は「教育委員会は4つできる」と言いますが、自治体であれば必ず設置すべきもの。自慢できる話ではありません。むしろ維新の下では教育支配が強まらないか心配です。

東京は機能してます?

 「東京23区はうまくいっているのに、何がいけないの」と質問がありました。23区には本当に問題はないのでしょうか。都が特別区を財政的に支配する関係は同じです。広域自治体で唯一の交付税不交付団体である都は財源豊かです。本社が集中する東京では法人住民税・事業所税(本来、基礎自治体の財源)などが多く、自主財源は7割を超えます。一方、人口70万人の足立区は17・2%(17年度決算)しかありません。

 「自治体は国と対等」とやっと法に明記されましたが、財政の仕組みは支配・被支配の関係を残しています。都と特別区の関係も財政調整交付金制度の下で同じ関係にあります。自治力を発揮するには自主財源率が高いに越したことはありません。

 維新は都構想で基礎自治体の財源を奪い、大規模開発事業をやりやすくする仕組みがほしいのです。維新のいう「成長のための都構想」とは利権乱発のためであり、「増えた財源」を社会保障費に回すことなどありえません。

「99%」の政策掲げて

 維新の政治手法はトランプと同じ。欧米で勢いづいた「右派ポピュリズム」、その先輩格にあたります。「既得権益エリート層」を攻撃の的にし、民衆の不満をかすめ取る。維新は自治体労働者に攻撃の矛先を向けました。「身を切る改革」をキャッチフレーズに、支持を拡大してきました。都構想は、「低迷する大阪も東京のように繁栄する」という幻想を利用しているところがあります。

 貧富の格差を拡大した新自由主義の犠牲者、99%の人びとは変革を求めています。その願いを実現する政策を掲げ、維新ではない選択があることを示し、投票率を高め、変革の可能性を訴えねばなりません。

 米国では、下院議員オカシオコルテスをはじめ民主主義的社会主義者が「グリーン・ニューディール」政策や公的保険制度などを訴え、大きな支持を得ています。英国労働党もコービン党首の下、社会主義的政策を掲げて支持を拡大しています。

 安倍政治との闘い方は維新政治との闘い方と同じです。相手の手法は全く同じなのですから。戦闘機ではなく保育所を。消費税増税ではなく法人税率を元に戻せ。残る地方選挙に勝利しましょう。 
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS