2019年05月03日・10日 1574号

【経団連会長 老朽原発活用を提言 最長60年を更なる延長狙う 急激な冷却で破損の危険】

 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は4月8日の記者会見で、「日本の電力システムを再構築する」との提言を発表した。その中で、火力依存度が高まっている現状に対し、「社会が受け入れるなら、原発比率を高めるのが一番現実的だ」として、最長60年となっている既存原発の運転期間の延長や、新型炉の開発について技術的検討を行なうべきだとした。

頓挫した原発輸出

 中西会長が年頭会見で、「国民が反対するもの(原発のこと)を無理やりつくるのは民主国家ではない」と述べていたことの軌道修正≠セ。

 中西が会長を務める日立製作所は、リトアニアの原発建設を受注したが原発の是非を問う国民投票で否決され事業が頓挫。また英国アングルシー島で進めていた原発新設計画についても、事業費が当初予定の約1・5倍の約3兆円に膨らみ、採算が合わないことから「凍結」(事実上の撤退)を余儀なくされた。年頭会見での発言は、原子炉メーカー日立の会長として原発輸出の挫折を踏まえた率直な思いを吐露したものだった。

 だが、原発輸出は安倍政権の成長戦略の柱であり、官邸や原発推進に固執する原子力ムラの各方面が、深刻な打撃となる中西発言にクレームをつけたことは想像に難くない。

老朽原発の危険性

 だが、経団連提言はまったく非現実的であり、脱原発を求める世論に逆行する。

 現在進められている原発再稼働の審査基準自体が、想定される地震の揺れの過小評価(計算式の誤り)、火山の巨大噴火の影響の過小評価があり、日本海での海底地滑りによる大津波を考慮していないなどさまざまな問題を含んでいる。

 加えて老朽原発特有の危険性がある。長期間強い中性子を浴びた原子炉は脆(もろ)くなり、緊急停止に伴う急激な冷却・温度変化に耐えられなくなっていく(脆性(ぜいせい)劣化)。科学的な作用による配管の腐食や熱(膨張と収縮)、振動を繰り返し受けることによる金属疲労も起きる。また、古い原発では耐火性のないケーブルが使われていることが多い。

 福島原発事故後、原発の運転期間は運転開始から40年が原則となった。同時に、「例外中の例外」(当時の細野豪志原発担当相)として「特別検査」をパスしたものについては20年間の延長を認めることとされた。

 2016年6月、原子力規制委員会は運転開始から40年を過ぎた関西電力高浜原発1号機と2号機の20年延長を認め、同年10月には40年を迎える同美浜原発3号機の20年延長を認めた。高浜1号機は「脆性遷移温度」(注)が99°Cと現存する原発の中で最も高く、一番危険な原発といわれていたにもかかわらず、問題なしとされた。耐火性のないケーブルについても難燃性ケーブルに取り換えることなく、ケーブルを防火シートで覆えばよいとされた。

安全より政府方針

 この立て続けの認可は、40年で廃炉という原則を事実上破棄し、電力会社が申請したものについては認可する姿勢を示したものだ。

 政府は2030年度時点の「最適な電源構成」として原発が占める比率を20〜22%にする方針を掲げている。原発の新増設が困難な中で、この目標を達成するには老朽原発の運転延長を認めるしかないとなる。規制委の姿勢は、安全よりも政府方針を優先するものと言うほかない。

 しかし、運転延長の認可を受けた関電は今年2月、3原発の安全対策工事の完了が予定より6〜9か月遅れると発表した。これは、駆け込みで「対策案」を通してもらったものの、実際の対策工事が難航していることを意味する。

 規制委は昨年11月には、運転開始から40年を迎える日本原電東海第二原発(茨城県東海村)の20年延長を認めたが、2017年の知事選の際のNHK出口調査で76%の有権者が「再稼働反対」と答えており、茨城県内44市町村の68%にあたる30議会で再稼働反対・廃炉の意見書が採択されている。

 危険な老朽原発はただちに廃炉にすべきで、60年を超えて運転させるなど到底認められるものではない。これ以上、次世代に危険を先送りしてはならない。

(注)高温で運転していた原子炉が急冷されると、金属が脆くなり、ヒビ割れたり破損するかもしれない境界を示す温度。

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