2019年05月03日・10日 1574号

【本当のフクシマ/原発震災現場から/番外編9/「お国のために被曝受け入れろ」/暴かれた衝撃の音声記録/被曝拡大政策は世界に通用せず】

汚染拡散の意図暴露

 「(福島の復興という)総論に反対する人はいないと思いますが、自分のところに汚染土が来たときに、日本のため、お国のために、お前ら我慢しろと」

 国民全体の便益≠フため、福島から出た放射能汚染土を日本全国どこでも受け入れさせろ―環境省の官僚たちが平然と議論している会議の音声記録が今年3月、初めて表に出た。『除染と国家〜21世紀最悪の公共事業』などの著書がある日野行介・毎日新聞記者が自ら情報公開請求で入手した音源の一部を公開したのだ。

 福島原発事故直後に顕在化した放射能がれき拡散に見られるように、政府は積極的に放射能汚染を福島から全国へ拡散する政策をとってきた。原発事故が原因の健康被害が原発付近に集中することで因果関係が明らかになる事態を政府は恐れている。健康被害の拡大がもはや避けられない以上汚染を拡散して健康被害も広く薄く全国に拡散させ、原発事故と健康被害が無関係であるかのように装う≠アとしか政府に残された手段はないからだ。

何重にもだまされた県民

 原発事故前は放射性セシウムが1キログラムあたり100ベクレル以下の汚染物に限り再利用を認める「クリアランス基準」があった。事故後、8千ベクレル以下の汚染土などを「安全に処理」する基準として環境省は事実上の二重基準となる数値を持ち出す。福島の除染で出る汚染土がこれ以下であれば工事などに再利用しようと政府は策動してきた。

 「1万ベクレル以上になると汚染土を扱う業者の被曝対策が必要だ。そうした面倒を避けながら、できる限り規制を緩くする上で8千はちょうどいい数字だった」と日野さんは言う。8千ベクレルにまったく根拠がないことも音声記録は明らかにした。

 がれき問題でも明らかになったように、汚染土の広域運搬には莫大な手間や経費がかかり現実的には難しい。福島県を汚染土の最終処分地にしないと国が約束しながら「再利用」が現実には福島県内で行われようとしているのにもこうした事情がある。

 だが、二本松市で行う予定だった再利用は住民の反対で頓挫。脱原発首長会議メンバーでもある三保恵一氏が市長に返り咲いたことも背景にありそうだ。南相馬市でも再利用に反対する3千筆の署名が集まった。8千ベクレルを根拠なく「安全」とし、県内を最終処分場にしないという約束も破られた以上当然だ。多くの県民が何重にもだまされたとの思いを強めている。

WTOでも敗訴

 福島など8県産の水産物の禁輸政策を採り続ける韓国に対し「科学的根拠がない」として日本が提訴していた件で、WTO(世界貿易機関)上級委員会は4月11日、日本勝訴とした紛争処理小委員会(1審)の決定を取り消し、韓国の禁輸を妥当とする決定を行った。放射性物質に関し、加盟国の判断で国際基準より厳しい基準を設けても直ちに自由貿易の原則に反するものではないとの判断だ。自由貿易を原則としながらも、自国民を守るための各国政府の措置をWTOが認めたことは画期的だ。当初、逆転勝訴は困難として韓国は上級委員会への上訴を見合わせる意向だったが、韓国「環境運動連合」などの市民運動が政府を上訴へ動かしたといわれる。

 日本政府は「風評被害を払拭するために食べて応援」の政策を続けてきた。そうした政策が国際的にはまったく通用しないことをこの決定は示した。日本政府は輸入制限を行う韓国を「非科学的」となじるが、日本こそ最も非科学的政策で自国民を汚染にさらしていることが音声記録で明らかにされたばかりだ。韓国を見習って厳しい安全基準を設定し、汚染食品や汚染土の拡散もやめ国民の健康を守ることこそ日本が今しなければならないことだ。


がんばる市民メディア

 日野記者をゲストに呼び「衝撃の音声記録」を放送で暴露したのは、北海道札幌市に拠点を置くコミュニティFMラジオ局の番組だ。パーソナリティを務めるのは福島県白河市から避難した女性。政府にも原子力ムラにも忖度なしに発言を続けるだけに「嫌がらせは何度もあった」と語る。だがそのラジオでの活動が認められ「公正な情報の流通促進や国民主権の実現に資する」として昨年、第6回「日隅(ひずみ)一雄情報流通促進賞」を受賞した。

 日野記者など一部を除いて大手メディアが原発に沈黙を続ける中で、日本と海外の市民の闘いが互いに影響を与え合いながら日本政府の被曝拡大政策を覆す。8年を過ぎ9年目に入った福島。絶望の間から希望も見える。

      (水樹 平和)

 
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