2019年05月03日・10日 1574号

【改定入管法施行 人権侵害の温床残す/原発労働に「特定技能」者あてこむ東電/すべての労働者の人権守る国際基準を】

 安倍政権が昨年12月に強行成立させた改定入管法が4月1日、施行された。

 法案段階では、外国人労働者の受け入れ業種や受け入れ人数さえも示されず、まさに白紙委任≠ナの強行だった。「特定技能」という在留資格を新たに設けただけで、外国人労働者に対する人権侵害の構造は温存された。

奴隷状態を放置

 これまで、外国人技能実習生は「日本の優れた技術習得」が目的のため、労働者扱いされていない。だが、実態は単純労働に従事させられてきた。

 これに対し「特定技能」は、「不足する人材の確保を図る」目的で外国人を労働者として受け入れることを明記した。日本語やそれぞれの分野の技能テストに「合格」すれば「特定技能」の在留資格を取得できることになる。

 実際には、技能実習生から多数が移行することを想定し、5年間で最大34万5150人とされる。受け入れ人数が最も多いのが介護で最大6万人。外食業が5万3000人、建設が4万人と続く。日本で働ける期間は最長5年間だが、その間、家族を連れて来ることはできない。

 法案審議過程で、奴隷状態で働かされている技能実習制度の問題がクローズアップされた。法務省による公式発表でも、技能実習生の失踪者は7089人(2017年〉。事情聴取ができた2870人のうち7割近い1939人が最低賃金以下で働いていた。失踪の背景には違法な労働環境やパワハラ・セクハラなどがあった。12〜17年の6年間で死亡した技能実習生は171人に上る。政府は、背後にある人権侵害、無法状態に何の対策もとらず、技能実習生制度を温存したのである。

権利保護なし

 法務省は3月15日、「白紙」状態の改定入管法の詳細を定めた政省令を公布した。

 この中には、「適正な雇用条件の確保」のためとして、「報酬は日本人と同等以上」「相談・苦情対応等を講じること」などの「基準」細目が設けられている。しかし、それらは形式的対応にすぎず、外国人労働者の人権保護とはほど遠いものだ。

 たとえば「報酬は日本人と同等以上」という「基準」。技能実習生に対して同じ規定があるが、実習生の多くは最低賃金すらもらえないのが実態だった。雇う側は「日本人と同等」を「日本の最低賃金さえ守れば良い」と勝手に読み替えるだろう。

 また、技能実習生は日本へ渡るためにビザ取得に係る書類作成料や紹介料など、多岐に渡る高額な費用をブローカーに借金することが多い。100万円を上回るケースも少なくないという。技能実習生は、借金を返し、さらに母国に送金するために働かざるをえない。過酷な労働条件やパワハラ・セクハラにも耐えるしかない状況に追い込まれている。さらにブローカーは事前に「保証金」を徴収し、逃げられないようにしている場合がある。

 今回、雇用契約内容の基準を定めた省令では、「保証金」を禁止する項目があるが、渡航前に支払う手数料は対象に入っていない。日本に来るためにかかる手数料については規制そのものがない。結局、技能実習生の場合と同じ事態に陥る可能性は非常に高い。

 転職が認められていない技能実習生に対し、「特定技能」は転職可能とされた。法律上可能でも、手立ては「受入れ企業か登録支援機関が転職まで支援する」だけ。だが、自社に不満がある労働者が他社へ移るのを手伝うはずもなく、まったく非現実的だ。少なくとも、ハローワークなど公的機関が求人や通訳の対応を保証することは不可欠だ。

早くも使い捨て

 技能実習制度の人権侵害や低賃金長時間の無権利労働を温存したまま、「特定技能」制度は見切り発車した。

 そのでたらめの極みが「福島第一に特定技能外国人」(4/19朝日)という原発労働への適用だ。東京電力は3月28日、元請けなど数十社に「特定技能」労働者を現場作業に受け入れることを通知。「建設」「産業機械製造業」や「ビルクリーニング」などの分野が該当すると言う。明らかに業種範囲を拡大解釈する違法行為だ。東電は18年、外国人技能実習生を敷地内で働かせていた前科≠持つ。何重もの下請け構造の下で、被ばくを強いる最底辺に外国人労働者を投入しようという悪辣さにはあきれ果てる。

 技能実習制度廃止とともに、「特定技能」制度を「全ての移住労働者及びその家族の権利の保護に関する国際条約」(1990年採択、03年発効、日本を含む移民受入先進国は署名さえしていない)、ILO条約及び勧告など国際人権諸条約にのっとった外国人労働者受け入れ制度に根本的につくり変える必要がある。外国人労働者を含むすべての労働者の権利を守る社会的運動を強めなければならない。



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS