2019年05月31日 1577号

【「テロ対策」工事未完で原発停止へ 来年ではなく今すぐ停止だ】

 原子力規制委員会は4月24日、原発を持つ電力会社との意見交換会を開催。特定重大事故等対象施設(いわゆる「テロ対策施設」)が工事認可から5年経っても完成しない場合、稼働中の原発であっても停止させる方針を決めた。更田(ふけた)豊志委員長ら規制委員3人一致の結論だ。

「前例ない」言い訳一蹴

 今回の事態は、福島原発事故を受けて2013年に施行された新規制基準により、テロ対策施設の設置が義務づけられたことに始まる。大型航空機の衝突を受けた際などに原子炉を遠隔で冷却する緊急時制御室を設けることが再稼働の条件とされた。

 この対策の期限は新規制基準の施行から5年。本来なら2018年7月までに終えていなければならなかった。ところが規制委は、新規制基準に基づく原発本体の審査が遅れていることを理由として2015年、「工事認可」から5年以内に勝手に変更した。再稼働審査の遅れは規制委の責任だからというものだが、安全審査の趣旨からすれば本来あってはならない逸脱だ。

 意見交換会では、電力会社が前例のない施設で工事が予想以上に大規模になっているため期限の再延長を求めた。だが、規制委は「前例のない施設というが、前例のない事故を経験した国だからその反省に立って出てきたもの」(更田委員長)「工事をやってみたら大変でしたというのは理由にならない」(伴信彦委員)と認めなかった。

前例はある

 原発のテロ対策施設に前例はある。米国では、ハイジャックされた大型機の衝突によって世界貿易センタービルが破壊された9・11テロ後、大型機が原発に衝突しても原子炉が破壊されることがないようにすることを稼働の条件とする基準を原子力規制委員会(NRC)が策定した。米国原子炉メーカー、ゼネラル・エレクトロニック社元技術者の佐藤暁さんは「NRCの場合、対策の猶予を認める場合であっても代替策がきちんと機能するかどうか厳しく審査する」と指摘する。工事の遅れを理由に代替策もないままテロ対策の猶予を認めてきた日本との大きな違いだ。

 福島原発事故では、原子炉自体は破壊されなくても、原発が全電源喪失に追い込まれれば炉心溶融につながることが示された。原発内でのテロ対策に万全を期しても、遠く離れた送電線や送電設備が破壊されては意味がない。

 規制委は電力会社に電源の多重化・分散を求めているが、泊原発(北海道)のように非常用ディーゼル発電装置への電源コードの固定が不十分だった例もある。福島原発事故前と同じく「国に甘えれば認めてもらえる」と考え、事故から何も学ばない電力会社に原発を動かす資格はない。

許されない再延長

 福島原発事故後に再稼働した原発は今、全国で9基ある(図)。高浜3・4号機、大飯3・4号機(関西電力)、伊方3号機(四国電力)、玄海3・4号機、川内(せんだい)1・2号機(九州電力)のすべてで工事は期限より1年〜2年半程度遅れる見込みだ。関電ではテロ対策工事を週末休日返上、二交代制で行っている。他の電力会社も含め、これ以上工事のペースを速めることは事実上不可能だ。規制委の姿勢が変わらなければ来年春以降、9基すべてが停止に追い込まれ、再び稼働原発ゼロが実現することになる。

 脱原発弁護団全国連絡会は4月23日、「特定重大事故等対処施設の完成期限超過に対して毅然とした措置を求める声明」を発表。延長された猶予期間すら守れず再延長を求める関電、四電、九電3社の姿勢を「周辺住民のみならず、全国民に対する許しがたい裏切り行為」と批判。「(福島事故は)耐震バックチェックにおいて当初定めていた3年という期限を経過し長期にわたり基準不適合状態となった原発の運転を、なし崩し的に認めていたことによって発生した」と検証し、「期限を超過した基準不適合状態の原発の運転をなし崩し的に認めていては、近い将来に福島原発事故のような深刻な事故を繰り返す」として規制委に毅然とした措置を求めた。

 規制委の姿勢の背景に東京五輪への「国際世論対策」があるとの指摘もある。原発停止を一時的なものに終わらせず、運動と世論で即時稼働停止、恒久的な原発廃止、廃炉につなげることが必要だ。

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