2019年05月31日 1577号

【グローバル資本の悲願=@不当解雇の金銭解決ルール 勝手に進める安倍政権許すな】

 終身雇用の維持は難しい=\経団連会長やトヨタの社長などグローバル資本の頭目たちがこぞって口にし始めた。それに呼応して、「解雇の金銭解決ルール」策定の動きが急速に進んでいる。カネさえ払えば首切り自由$ァ度の導入を許してはならない。

暴走する厚労省検討会

 厚生労働省は昨年6月12日、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」(以下「論点検討会」)を設置。労働法、民法、民事訴訟法の御用学者6人で構成される論点検討会では、すでに第5回(2/8)、第6回(3/19)に論点整理が行われ、近々報告が出される。この夏以降、労働政策審議会の議論を開始し、来年の通常国会に法案を提出することが予定されている。

 論点検討会の目的は「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的な論点について議論し、整理を行うこと」とされる。金銭解決制度の導入の是非や必要性は、検討会の論点整理を踏まえ、労使代表を含む労働政策審議会での議論が想定されていたはずだった。

「労使」不在で立法化へ

 しかし、厚労省事務局の資料や議事録では、解雇の金銭解決制度を導入することを前提にした法的問題点の整理となっており、明らかに立法化に向けた土台作りを行っている。現在、論点検討会は、各論点について複数の選択肢からどの考え方や制度を採用するべきかという議論にまで踏み込んでいる。その「本来の目的」を大きく逸脱している。

 第6回の議事録では、労働契約解消金(いわゆる解決金)に上限と下限を設けること、労働契約解消金は解雇の不当性とともに労働者の帰責性(負うべき責任がどれだけあるか)の度合いも勘案すること、制度の対象となる解雇に禁止解雇(労働基準法など法律で禁止された解雇)を含めることなどが次々と合意されている。解決金の上限を制定する、労働者にも非があったと主張して解決金を減額するといった経営側の要求を、御用学者委員が代弁して勝手放題に決めているのだ。

 制度の対象を禁止解雇まで含めると、思想信条による解雇、妊娠・出産による解雇、労災事故による休業中の解雇など到底許されない解雇であっても金銭解決可能とされてしまう。解雇の金銭解決ルールは、解雇の拡大だけでなく違法解雇の爆発的な広がりに火を付ける。労働組合の排除も簡単に行えるようになる。

 解雇の金銭解決制度は、2003年と05年の検討時に導入が困難とされ、15年10月から17年5月まで20回にわたる「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」でも導入については委員のコンセンサス(共通認識)が得られなかった。同制度の検討を続ける必要性は全くない。労使が不在の検討会で導入を前提とした議論を行い、制度の方向性を決めるなど言語道断だ。

金銭解決法下のイタリア

 イタリアで14年から15年にかけて「ジョブズ・アクト法」という解雇の金銭解決法が施行された。東京法律事務所によれば、イタリアでは、これまで裁判所などで無効とされた解雇のうち70%が原職復帰していたが、ジョブズ・アクト法により、無効であった解雇の相当部分について、労働者の意思にかかわりなく、裁判所が原職復帰ではなく金銭解決を命ずることができることになってしまったという。

 しかも、金銭解決の水準は非常に低い。15人を超える企業の場合には、勤続年数1年ごとに給与の2か月分相当額、計4か月〜24か月分の範囲で裁判所が決定できることとなっている。15人以下の企業の場合、その半分の水準の手当(勤続年数1年について1か月分、計2か月〜12か月)の支給でよい。イタリアは中小零細企業が多く、15人以下の企業数が全企業の98%を占める。事態は深刻だ。経営側は「同法によって解雇が容易になった」としている。

 さらに同法によって、先に述べた低水準の解決を前提とした和解が容易になった。また、労働協約の規制を受けずに使用者が労働者に対して職務の変更を命じるなど、職務内容固定を前提にしたヨーロッパ型の労働関係を破壊しかねないものとなっている。

 イタリアは日本に比べて解雇は容易でなかった。こうした国でも、解雇の金銭解決法は労働者の解雇を容易にし権利を損ねているのである。

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 解雇の金銭解決制度導入は、日本経団連など経営者側の悲願≠ナあった。ことあるごとに導入を画策し、その度に労働側の強い反発をうけて導入が見送られてきた経緯がある。いまグローバル資本の意を受けて、安倍政権はこの政策の立法化に向けて急ピッチで動き出そうとしている。



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