2019年06月07日 1578号

【問題だらけの「幼保無償化」策/保育の質と量を確保し完全無償化を/戦闘機1機やめれば、待機児童4000人解消】

 安倍政権の進める「幼児教育・保育の無償化」には、「待機児童対策を」「保育の質が問題」など厳しい批判が向けられている。安倍の政策は、子育て世代の働き手確保を目的とした政策だからだ。子どもの人権保障を実現し、公的責任で完全無償化こそ実施されねばならない。

 5月10日、消費税増税とセットで幼保無償化を進める「子ども・子育て支援法改正案」が成立。その内容は、3〜5歳児は原則全世帯、0〜2歳児は住民税非課税世帯を対象に認可保育所や幼稚園、認定こども園の利用料を無償化するもの。国の基準を満たさないベビーシッターも含む認可外施設なども、5年間は上限つきで費用を補助する一方、給食費や送迎バス代などは実費負担とした。

民営化に拍車

 子ども子育て支援は、憲法と子どもの権利条約に基づき、子どもの人権保障を目的に良質な就学前教育・保育を実現することが必要だ。しかし、この無償化は保育の質と量を置き去りにした問題だらけの施策だ。

 第一に、保育の質の低下に拍車をかけることだ。認可外施設の給付は自治体の確認を要件としているが、国の助成を受けた施設の約1割が事業をやめていたずさんな経営の企業主導型保育所どころか、保育士ゼロの施設であっても対象となる。劣悪な施設の温存、増設になりかねない。

 第二に、「消費税増税を財源」にしたうえ、所得制限を設けたことで税配分が中高所得層に手厚い逆進性を強めていることだ。現在でも低所得世帯などへの減免措置が実施されており、0〜2歳児では住民税非課税を超える世帯は無償化にしなかったためだ。内閣府は、保育所では無償化に伴う公費負担額の約半分は年収640万円以上の世帯に、幼稚園では費用の4割近くが年収680万円以上の世帯に向けられると試算。さらに、「食育は教育の基本」として保育料に含まれていた給食費は実費負担になり、低所得者世帯にとっては負担増になる世帯もある。格差と不公平を広げることになる。

 第三に、無償化費用の半分以上を自治体に負担させていることだ。政府は当初の国全額負担の約束を破り、私立保育所は国1/2、都道府県1/4、市町村1/4とし、公立保育所は市町村が全額負担する仕組みに変え、自治体負担を重くした。このため、公立保育所の民営化にさらに拍車がかかる。実際、各地の自治体で、保育所民営化の主要な理由になっている。

経済政策の一つ

 そもそも安倍政権の進める幼保無償化は、16年の「一億総活躍プラン」に端を発し、17年12月に政府が決定した「新しい経済政策パッケージ」に含まれる政策のひとつだ。「新しい経済政策パッケージ」は、アベノミクスを軸に、規制緩和による「公共サービスの産業化」などによる名目GDP600兆円の実現を目指す大企業のためのもの。その下で、幼保無償化は、同時に掲げた介護離職ゼロなどとともに、低賃金のワーキングプアを量産するための労働力確保の施策なのである。当然、子どもの人権保障の視点はない。

 無償化によって、保育の需要が増え待機児童も増加が予想されるのに、政府は、保育士の待遇改善をしないばかりか、保育士の配置基準を引き下げ、保育士資格をもたない「保育人材」の拡大を図っている。今年4月から国家戦略特区で保育士が配置基準の6割でも認可保育所なみにあつかう「地方裁量型認可化移行施設」などを創設した。安上がりの保育人材は、保育市場に参入する資本に利益をもたらす。一方、保育の質の低下はすでに現実のものとなりつつあり、子どもの安全や健やかな育ちが脅かされている。

子どもの人権守れ

 求められているのは、所得制限を設けず、給食費なども含めた完全無償化だ。しかも「死なせなければよい」という程度の保育の質であってはならず、劣悪な認可外施設を選択しなくてもよい保育の量の確保がセットでなければならない。

 待機児童解消に向け、公立保育所の民営化をやめ、公立を含む認可保育所の大増設と、保育士が安定的に働けるよう抜本的な処遇改善を行うことだ。

 厚労省調査によると、17年度の保育士の平均年間賃金は342万円。全職種平均より150万円近く低い。賃金の大幅な引き上げとともに、保育士1人当たりの担当子ども数を減らし、配置を手厚くする基準改正と、他費目に流用できない人件費に特化した国による助成が必要だ。これにより70万人とも言われる「潜在保育士」に活躍の場ができ、保育士不足解消につながる。

 財源はある。147機購入予定のF35戦闘機1機(116億円)で、4000人分の保育所が建設できるのだ。消費税に頼らずに、大企業・富裕層への課税と5兆3千億円の軍事費の削減で実現できる。

 グローバル資本の利益ではなく、子どもの人権を守り、親の働く権利を保障するために、集中して国費をつぎ込むべきだ。子どもの権利条約、児童福祉法、憲法の平等原則を実現することだ。それが国と自治体の公的責任であり責務だ。

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