2019年06月14日 1579号

【どう見る米中貿易戦争/米国独占を脅かす中国企業との攻防/搾取強化させない対案を】

 トランプ米大統領の登場で激化した米国と中国の貿易戦争。追加関税の応酬は今月末、米国の第4次発動が予定されている。これは、「保護貿易」か「自由貿易」かの問題ではない。グローバル資本主義の下での市場争いの一場面に他ならない。利潤は労働者の搾取から生まれる。「1%の富裕層対99%の貧困層=労働者・市民」の観点から、米中対立で何が起こっているのか見ておこう。

追加関税の応酬

 米中貿易戦争の直接的原因は、米国による貿易赤字解消の要求だ。米国は2018年過去最高の貿易赤字8787億ドル(約98兆円)を記録した。その半分近い4192億ドルが対中国のものだった。

 トランプ大統領は追加関税引き上げの対象品目を段階的に広げながら交渉を行った。昨年7月の340億ドル分から始まり、今年の6月末には第4弾、3000億ドル相当が予定されている。中国も報復関税で応じたため、中国から米国への輸出額約5400億ドル、米国から中国への輸出額1200億ドル、それぞれの9割以上に相当する品目が引き上げの対象となった。

 価格の上昇が消費を落ち込ませるのは間違いない。トランプの経済顧問ラリー・クドロー国家経済会議委員長は、中国にかけた関税は米国の企業・消費者が負担することになることを認め「米、中双方が損害を被るだろう」(5/14BBC)と語っている。

 こんなわかりきったことをなぜトランプは仕掛けたのか。「対中貿易赤字解消」はトランプの選挙公約だったからだ。「中国から工場を取り戻せ」

 しかし、事は単純ではない。16年春、中国からルイジアナ州に戻ってきたゴーカートの組み立て工場は、部品を国内で調達できず、結局、18年春閉鎖された。「中国で作ったほうが安かった」

 グローバル資本は安い労働力を求めて世界中に生産拠点を移した。アップル社の取引先約800社のうち5割弱は中国の工場だ。米国製造業の衰退を表すラストベルト(錆びついた地域)は、グローバル資本が高利潤を求め、見捨てた結果なのだ。




ファーウェイ排除の理由

 トランプにとって対中貿易戦争は選挙向けのパフォーマンスだけではない。米国企業による独占体制を維持するために、中国企業の排除が待ったなしになってきたのだ。その象徴的企業が通信機器メーカー華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)だ。

 トランプは5月15日、国家緊急事態法などに基づき「情報通信技術とサービスのサプライチェーン保護に関する大統領令」に署名した。「米国の国家安全保障または安全保障に容認できないリスクをもたらす取引を禁止する」。この取引禁止の企業リストにファーウェイはあげられる。

 ファーウェイが狙われたのは、次世代移動通信規格5G開発でトップを行くからだ。5Gは今の20倍のデータ量を100倍の速度で通信でき、同時多数接続が可能となるという。IoT(すべての電子機器をネットでつなぐ)の時代にあって、その支配力は計り知れない。それは軍事システムの優劣にもつながる。まさに「安全保障」に関わるのだ。

 米国は、ファーウェイの創業者、任正非(レンチェンフェイ)に軍歴があることや製品に「バックドア(裏口)が仕込んである」などをあげ、排除しようと仕掛けた。米中央情報局(CIA)は世界中の通信を盗聴している。ファーウェイにスパイの名を着せるのは「言いがかり」に過ぎない。本音は、5G開発の遅れを取り戻すためにファーウェイを足止めしたいのだ。

「中国製造2025」

 デジタル・テクノロジーの分野では、米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が圧倒的な支配力を持っている。大量の個人情報(行動様式から思想傾向まで)は、いまやターゲットを絞った宣伝手法などにより巨大な利潤につながっている。それどころか大統領選の投票動向さえも左右する力を発揮している。この独占的地位を脅かす者は排除の対象とされるのだ。

 いま中国は、建国100周年となる49年までに「世界の製造強国の先頭グループ入り」を目標に掲げ、当面25年に製造強国に名を連ねる「中国製造2025」を打ち出している。次世代情報通信の他、航空・宇宙などあらゆる先端分野で米国に並び、超えることを目指している。

 すでに米国の全地球衛星測位システムGPSに対抗して、独自システム「北斗」を整備し、アジア、アフリカ諸国に広げている。米国などの拒否で参加できなかった国際宇宙ステーションに代わり、独自の宇宙ステーションを建造した。国際決済システムでも、米ドル主導の国際銀行間通信協会(SWIFT)ではなく、独自の国際銀行間決済システム(CIPS)を導入。人民元による取り引きを拡大している。89か国、865の銀行が利用している(5/19日経)。

 米国の独占体制を脅かす分野は多い。

99%の利益を守るには

 米中の主導権争いは、いずれにしてもグローバル資本の利潤争いである。しかも利潤は史上かつてない水準となり、わずか26人の超富裕者が下位半数38億人と同じ額の資産を手にする格差が拡大している。利潤が拡大することは、とりもなおさず搾取が一層ひどくなることを意味する。グローバル資本はさらに競争力を高めるために労働者の権利を切り縮めることしか考えないのだ。

 日本政府はファーウェイ排除に動き、米国側につくそぶりを見せている。しかし、中国との貿易収支は6兆円の黒字。敵対するわけにはいかない。逆に米国からは貿易赤字676億j(約7兆5千億円)の解消を迫られている。牛肉、農産物の輸入拡大など「7月の選挙後」に何らかの「合意」があるかのようにトランプは言っている。

 世界的なデフレ不況(過剰生産不況)にあって、労働者・市民の購買力を上げることこそが求められている。中小零細事業所や第1次産業の保護育成を抜きに、貿易交渉はあり得ない。グローバル資本の支配を強めることをさせてはならない。

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