2019年06月28日 1581号

【年金改悪と生存権保障(下)/「老後2000万円」に怒り噴出/公費による最低保障年金制度を】

 「老後のために2000万円を貯めよ」とした金融審議会報告書への怒りが噴出している。麻生財務相は報告書を受け取らない=なかったことにする暴挙に出た。だが、年金不足を自助努力で補うことの強調は以前からされており、参院選対策の姑息なごまかしでしかない。報告書が示唆した将来の年金減額は、安倍政権の一貫した政策であることを見逃してはならない。

自助努力迫る安倍

 「2000万円貯めよ」が憤激をもたらしたのは、市民の実態と全くかけ離れているからだ。貯蓄無し世帯は2人以上世帯で30%超、単身者では約5割、非正規率38%超、退職金も年々減少しているのが現実だ。2000万円の例は、月収21万円の標準的高齢世帯(夫婦)を対象に平均的支出で月5万5千円の不足となることから導き出されたもの。21万円に届かない低年金や無年金の高齢者の「不足」はもっと多くなる。

 安倍政権は、年金額引き下げと受給開始年齢引き上げなど年金制度改悪を狙っている。その口実として年金財政のひっ迫があげられ、財源に消費税増税が強調される。これに対し、抜本的な改革案を提起すべき時だ。

排除の原理はダメ

 低年金・無年金者は1200万人を超えている。2年前から年金受給の資格期間が保険料納入25年から10年に短縮された。それでも、10年では月1万7千円程度と、低年金状態は続く。また、消費税10%増税の低所得者への「緩和策」として年金生活者支援給付金が創設された。月5千円を上限に支給予定だが、低年金解消にはならない。

 見えてくるのは、社会保険方式という現行の年金制度そのものの問題点だ。保険料負担をしないと給付無し、少ない場合は低額とする排除の原理がつきまとうのだ。

 国民年金納付率は約7割で、30%近い人が未納であり、「国民年金の空洞化」が指摘されている。ここでも排除の原理が貫かれ低年金・無年金問題は社会問題化している。

 国民年金法は「憲法第25条第2項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与すること」(第1条)を目的に掲げる。年金制度には「健康で文化的な最低限度の生活」を定めた憲法第25条の精神を活かすとともに共同連帯が軸に座らなければならない。国民年金法がうたう理念は排除の原理と相いれず、共同連帯の具体化を求めている。

不公平税制を正せ

 年金制度は、基礎年金の国民年金と所得比例の被用者年金で構成されている。とりわけ、国民年金は基礎年金であることから排除の原理を取り除き、かつ共同連帯を体現しなければならない。それは、公費による最低保障年金として再構築すれば解決できる。

 この最低保障年金制度とは、老齢・障害・遺族に該当すればだれもが最低保障の年金を受けることができるものだ。排除の原理も空洞化も生じない。

 国連社会権規約委員会が2013年に「日本政府に対する第3回総括所見」を公表した。その中に、低年金・無年金者に貧困があるため最低保障年金を確立せよとの日本政府への勧告が含まれている。社会権規約の批准国である日本は、この勧告について実施義務を負っている。

 ところが、公費による最低保障年金制度には「批判」が付きまとう。実現するには消費税3・5%〜12%の増税になる、それでもいいのか≠ニ脅す。だが、社会保険料を税などに置き換えることが、そのまま増税になるわけではない。

 低年金・無年金者に最低保障年金を確保するための財源をどうするか。最低保障年金額がその名に値するには生活保護基準レベルの月8万円以上を検討すべきだが、現行の国民年金額が満額6万5千円であることからすると、ここでも財源確保が必要だ。

 その財源は消費増税ではない。不公平税制の是正だけで約38兆円(「不公平税制をただす会」の試算)の増収が可能だ。400兆円に上る内部留保をもつ大企業などの法人税増税と、資産を急増させている富裕層への増税を行う。消費税導入から現在までの法人税減税分は298兆円、富裕層優遇の所得税・住民税減税で275兆円が減っている。これを以前の税率に戻せばよい。また、今後5年で27兆5千億円という軍事費の抜本的削減は必須だ。150兆円以上の年金積立金の適正な取り崩しも財源として検討できる。

 これが今必要な解決策だ。



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