2019年06月28日 1581号

【どくしょ室/移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線/出井康博著 角川新書 本体920円+税/国家ぐるみの奴隷ビジネス】

 「消えた留学生」が社会問題になっている。東京福祉大学で1600人を超える留学生が過去3年間に所在不明になっていることが分かったのだ。同大の「ずさんな運営実態」がメディアをにぎわせている。

 だが、「消えた留学生」は東京福祉大学固有の問題ではない。留学生の大量受け入れは多くの大学や専門学校も行ってきたことであり、日本政府はそれを黙認してきた。本書は、留学生を安くて使い捨て可能な労働力として国家ぐるみで食い物にしている実態を明らかにしている。

 留学生が近年急増した背景には安倍政権が成長戦略の一つに掲げる「留学生30万人計画」がある。留学ビザの発給基準を大幅に緩和したことで、アジアの貧しい国々から留学生が押し寄せるようになった。そのほとんどが出稼ぎ目的の「偽装留学生」だった。

 留学生の就労が厳しく制限される欧米とは異なり、日本は「週28時間以内」のアルバイトが認められている。現地のあっせん業者の「日本に留学すれば簡単に稼げる」という言葉を信じて若者たちは日本にやってくる。入管書類は業者がでっち上げたものだが、それを日本政府は黙認し、留学ビザを発給してきた。

 偽装留学生たちはブローカーに払った「手数料」など多額の借金を背負っている。法定上限を超えて働いても借金はなかなか減らない。留学生が違法就労の発覚を恐れていることに付け込み、超過勤務分の賃金を払わない企業もある。

 日本語学校の場合、在籍期間は最長2年。2年の労働では借金返済もままならない。日本で働き続けたい者の受け皿になっているのが、東京福祉大学の件で注目された「学部研究生」だ。少子化で経営難の大学は、ビザ更新をエサに留学生をかき集め、学費を絞りとっていたのである。

 著者は、偽装留学生問題が世に知られない一因として、朝日新聞の報道姿勢を「どこまで罪深いのか」と痛烈に批判している。人材派遣会社が過疎地に日本語学校を設立し、あくどい事業を展開していても「留学生で町おこし」と肯定的に報じる。あるいは、ネパールで留学生送り出しに携わる日本人を「輝く女性」と持ち上げる、等々。

 そんな朝日新聞はベトナム人奨学生の違法就労で支えられている。首都圏だけで約30万部が「朝日奨学会」が受け入れた外国人の手で配達されているのだ。労基法違反の実態や差別待遇を著者が追及しても、朝日本社は知らんふりだ。

 この4月から外国人留学生の就職条件が緩和された。政府は「優秀な外国人材」の確保が狙いとしているが、本当の目的が低賃金・重労働を担ってきた偽装留学生の引き留めにあることは明らかだ。外国人労働者を底辺労働に固定する「移民国家」へと、日本は舵を切ったのである。   (O)
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