2019年07月05日 1582号

【MfA(メディケア・フォー・オール すべての人への公的医療保険)米国医療制度を根本から変える サンダースが提案、DSAも支持】

 民主党の次期米国大統領候補として名乗りを上げているバーニー・サンダース上院議員は4月10日、他の14名の民主党上院議員とともに「メディケア・フォー・オール(MfA、すべての人への公的医療保険)」という名称の包括的な公的医療保険制度を創設する法案を上院に提出した。米国民主主義的社会主義者(DSA)、民主党の左派、医療関係者の団体なども、MfAの導入を求める運動に活発に取り組んでおり、同制度は全米で議論の的になっている。サンダースの法案には、DSAなど全米の63の組織や労働組合が支持署名をしている。

単一の公的医療保険

 MfAは、既存のさまざまな医療保険と医療扶助の制度を統合し、米国のすべての居住者が加入する単一の公的医療保険制度を創設する構想である。それは、入院治療、外来診療、処方箋薬、検査などにかかる費用から、高齢者への介助と障がい者への介助をも保険の対象に含む。医療やサービスを利用する際の自己負担は原則として発生せず、費用のほとんどがMfAから支払われる。民間医療保険にある免責額の制度(医療保険からの給付がなく被保険者の自己負担となる金額)もない。

 今回の案についてサンダースは、「MfAはいかなる新しい支出をも要求していない」とし、MfAの主な財源として以下を挙げている。

(1)被雇用者は所得の4%を、新たに創設される基金に保険税として納める。世帯の所得に応じて納付免除がある。

(2)雇用主(企業)は収入の7・5%を基金に納める。収入に応じて納付免除がある。

(3)1千万j以上の所得に70%の最高税率を設けるなど、連邦所得税の累進性を高めて税収を増やす。

(4)10億j以上の資産の相続には77%の最高税率を設けるなど、相続税の累進性を高めて税収を増やす。

公的医療保険なき米国

 米国には包括的な公的医療保険制度(医療における「国民皆保険」)が存在しない。民間企業の従業員は、民間の保険会社が提供する医療保険に加入しており、こうした加入者は2011年度で米国の総人口の約64%に達する。この民間医療保険のうち55%が加入しているのが、雇用主が民間保険会社と契約して従業員に医療保険を提供する雇用主提供医療保険だ。個人向け保険の場合には保険料の約18%を、家族向け保険の場合には保険料の約28%を、従業員が負担しなければならない。多くの市民は現在すでに民間保険会社に対して多額の保険料を納めている。

 民間医療保険ではカバーされない人びとに対して医療を保障するのが、準・公的医療保険制度である高齢者・障がい者対象の「メディケア」と、低所得世帯向けの医療扶助制度「メディケイド」である。

 65歳以上の高齢者と65歳未満の障がい者に適用されるメディケアは、連邦政府が運用。社会保障税や連邦政府の一般歳入を財源とする公的保険であったが、近年は民間保険を活用する傾向を強めている。

 メディケイドは、連邦貧困ラインを下回る低所得世帯向けの医療サービスに対して支給される公的扶助制度で、連邦政府の指針に沿って州政府が運用している。連邦政府と州政府が予算を出し合うことで財源が賄われている。

オバマケアの意義と限界

 2010年にオバマ政権のもとで成立した患者保護および医療負担適正化法(「オバマケア」)は、深刻な無保険者問題に対応しようとするものであった。これまで、自営業を営んでいるか、または保険を提供できる余裕のない中小企業の従業員は、民間保険に加入することができないだけでなく、メディケアやメディケイドをも受給することができなかった。オバマケアは、50人以上の従業員を擁する企業に対して民間保険の提供を義務づけ、無保険の自営業者等に対しては所得に応じた補助金を支給することで民間保険への加入を義務づけた。

 オバマケアはまた、メディケイドの対象となる世帯の所得を連邦貧困ラインの138%に拡げるとともに、男性が世帯主の低所得家庭にもメディケイドを支給する(それまでは母子家庭のみ)こととした。

 しかし、オバマケアは民間保険を中心とする米国の医療保障制度に大きな変化をもたらしたわけではない。

 第1に、オバマケアには補助金の支給を制限する条項があるため、無保険者は減少することはあってもなくなりはしない。補助金支給後の保険料が世帯収入の8%以上である者や非登録移民には、補助金が支給されない。現在、米国には3400万人の無保険者がいるが、2025年になっても2700万人の無保険者が残るとされる。

 第2に、オバマケアは低保険者問題に対処することができない。低保険者とは、高い免責額や窓口自己負担額のせいで、民間保険に加入していても十分な医療サービスを受けられない(受診することを自己抑制する)人びとを指す。米国では5人に1人が、処方箋薬が高額であるせいでそれを買うことができず、4人に1人は必要な医療を受けるのを(高額な自己負担のせいで)避けている。オバマケアは民間保険への加入をうながしたが、その民間保険では高い免責額や窓口自己負担額を設けた保険プランが減っていない。

「革命」的変革のMfA

 オバマケアも含め民間保険に依存する米国の医療保障制度には、解決しなければならない多くの問題点がある。

 第1に、米国の雇用主と従業員は高額の保険料を納めているが、民間医療保険は保険会社の巨額の利潤(トップ5社の利潤は210億j〈約2兆3千億円〉)とも相まって膨大なコストを生んでいる。

 第2に、メディケアとメディケイドは、低所得世帯の医療保障において重要な役割を演じてきたが、受給者は「福祉依存」のレッテルを張られている。制度の分立は、人びとの間で分断を生むのだ。

 第3に、民間保険に依存したオバマケアは無保険者や低保険者の出現に対応することができていない。

 こうした諸問題をすべて解決できるのが、すべての居住者が加入する単一の公的医療保険制度MfAである。また、MfAには免責額も窓口自己負担も存在せず、企業や個人に追加的な保険料負担を強いるわけでもない。

 MfAは、米国の医療制度に「革命」と呼べるほどの変化をもたらす。一方、その制度設計は実にシンプルで、しかも財政面における持続可能性を備えている。

 トランプ政権はサンダースの法案について、「自称社会主義者」が打ち出した「政府による医療保険の独占策」だと攻撃を加えた。そればかりでなく、共和党の州知事らは、オバマケアが定めた市民への保険加入義務は憲法違反にあたるから廃止すべきだという訴訟をテキサス州などで起こした(2018年12月)。

 MfAは、来年の大統領選挙に向けて大きな争点となっていくだろう。



 
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