2019年07月19日 1584号

【安倍の逆ギレ「輸出規制」/貿易を脅しに使い、排外主義で人気取り/韓国相手にトランプ気取り】

 日本政府は韓国に対し、半導体製造などに必要な化学製品の輸出規制強化策を発動した。表向きには否定しているが、元徴用工への損害賠償を日本企業に命じた韓国大法院(最高裁)判決への報復措置であることは明らかだ。貿易を政治的脅迫に使い、排外主義を煽って支持を得ようとする手口は、米国のトランプ大統領を思わせる。

「徴用工」への報復措置

 日本政府が輸出規制強化の対象にしたのは、半導体の洗浄に使う「フッ化水素」、半導体の基板に塗る感光剤「レジスト」、そしてスマートフォンのディスプレイなどに使われる「フッ化ポリイミド」の3品目。これまで韓国には認めていた輸出手続きの簡略化を適用除外にした。

 3品目とも日本企業が世界の全生産量の大半を占めており、代替品を急に調達することは困難だ。「事実上の禁輸措置」(7/1読売)ということになれば、半導体や電子機器を主要産業とする韓国経済への影響は大きい。

 この措置について安倍晋三首相は「当然の判断だ」と述べた(7/3日本記者クラブ主催の党首討論会)。「歴史認識問題を通商政策と絡めた」との見方は否定したものの、規制発動の理由とした「日韓の信頼関係が著しく損なわれた」例に、韓国政府の元徴用工訴訟や日本軍「慰安婦」問題への対応をあげた。

 いわく「日韓の請求権問題は決着済み。国と国の約束が守られない中では今までの優遇措置はとれない」。やはり、「戦後補償は解決済み」論に与(くみ)しない文在寅(ムンジェイン)政権への報復措置ということだ。

 「制裁」発動に安倍応援団は狂喜乱舞した。産経新聞は「文在寅政権が執拗に繰り返す反日的な行動は枚挙にいとまがない。抗議を重ねても馬耳東風を決め込む韓国に対し、法に基づく措置で対処するのは当然だ」(7/2主張)と、全面支持を表明した。

 夕刊フジは「日本『対韓制裁』発動で韓国ハイテク壊滅!?」(7/1)など、脳内で軍艦マーチが鳴り響いているかのような煽り記事を連日載せている。産経新聞特別記者の田村秀男は高倉健の任侠映画が「頭の中に浮かんだ」(7/5同)のだという。「忍耐と我慢を重ねた揚げ句、とうとう反撃に転じる―。」

 幼稚な逆ギレ首相を銀幕のスーパースターになぞらえるなんてピント外れにもほどがある。「健さんの墓前に伏して謝れ」と言いたい。

嫌韓ムードを味方に

 一方、朝日新聞や毎日新聞は「日本が重視してきた自由貿易の原則をゆがめるものだ」(7/4毎日社説)として、日本政府に「即時撤回」(7/3朝日社説)を迫った。

 財界直結の日本経済新聞ですら「通商政策を持ち出すのは企業への影響が大きく、長い目でみて不利益が多いと懸念せざるをえない」(7/2社説)と「自制」を求めた。それはそうだろう。「韓国電機産業の生産に影響が出るとともに韓国企業を大口顧客とする日本企業も打撃を受ける恐れがある」(同)からだ。

 たとえば、材料の供給遅れにより韓国サムスン電子の生産に支障が出るようなら、同社の半導体を使っている日本のメーカーにも悪影響が及ぶ。韓国製スマホの部品を下請け製造している中小企業も受注量を減らすことになる。

 さらには「日本発の供給ショック」(同)により、世界経済を混乱させることになりかねない。ただでさえ、景気悪化の動きが出ている今、日本経済にとっていいことは何一つないのである。

 それなのに、安倍首相は身内の論理を優先し、韓国への対決姿勢をぶち上げた。読売新聞(7/2)によると、「日本企業や、国際的な製造網への影響を懸念する見方もあったが、最後は官邸や周辺議員の強い意向が働いた」のだという。直近に迫った参院選対策とみて間違いない。嫌韓ムードを煽り、味方につけたいというわけだ(もちろん、争点隠しの意図もある)。

こんな政権でいいのか

 もともと、安倍官邸はG20サミットで「外交の安倍」を派手に印象づけ、選挙の弾みとする戦略を描いていた(サミットの日程も選挙直前にわざわざ設定した)。

 ところが、「北方領土」問題はロシアに無視され何の進展もなかった。あれほど尻尾を振ったトランプ米大統領には「日米安保は不公平」発言を突きつけられた。そして、G20翌日(6/30)の電撃的な米朝首脳会談である。安倍首相は何も聞かされておらず、赤っ恥をかいた。

 そうした外交失態の印象を薄めるために、官邸はかねてより計画していた「対韓制裁」を発動した。最初に報じたのは、6月30日付の産経新聞朝刊だった。板門店(パンムンジョム)で行われた首脳会談にぶつけるべく、情報を流して書かせた可能性が高い。子どもじみたふるまいだが、それが安倍政権なのである。

   *  *  *

 今回の日本政府の対応について、米紙ウォールストリート・ジャーナルは「トランプ流としか言いようがない」と評した。ブルームバーグ通信も、中国などに「貿易戦争」を相次いで仕掛けたトランプを日本が追随している、との分析を伝えた。

 貿易を政治的脅迫の道具に使う。排外主義を煽って選挙を有利に運ぶ―。そんな手法を得意とするトランプと同じとみなされた安倍晋三。大変な不名誉だが、厚顔無恥の安倍のことだ。「大統領並みの評価を受けた」と喜んでいてもおかしくない。

 今こそすべての人びとに参議院選挙で問いかけたい。「こんな安倍政権が続いていいのですか」と。  (M)



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