2019年07月26日 1585号

【未来への責任(278)嘘、誹謗の日本製鉄株主総会】

 社名を戦前の名前=「日本製鉄」に変更して初めてとなる定時株主総会が6月25日開催された。日本製鉄元徴用工裁判を支援する会では株主総会に先立ち質問状を提出した。

 ―(1)1997年に釜石製鉄所の韓国人遺族とは会社は和解した(2)2012年の株主総会では「最終的に敗訴した場合には判決に従わざるを得ない」と回答していた(3)2013年7月原告勝訴の韓国高裁判決直後に「敗訴判決が確定した場合には賠償に応じる意向」と報道されている(4)会社の企業行動規範では「各国・地域の法律を遵守し、各種の国際規範、文化、慣習等を尊重して事業を行う」とうたっている―

 この4つの質問に会社は一切答えず、「韓国の大法院の判決は、結論はもとよりそこで示された理由につきましても極めて遺憾」であり「日韓両国政府による外交交渉の状況等も踏まえ適切に対応してまいります」と従来の主張を繰り返すだけであった。

 株主総会の議論も日本を代表するグローバル企業とは到底思えない。昨年も、ある株主の「世界唯一の日本精神を体現する”日本”という社名に変更すると聞いて本当にうれしい」「中国や韓国に対して日本の武士道精神で一喝してほしい」との発言に、当時副社長の橋本英二現社長は「激励ありがとうございます。日本男児の端くれとして頑張ってまいります」と中国・韓国を見下す「ヘイト発言」を糾(ただ)すどころか迎合する返答をし、会場から拍手が沸いたのである。

 今年は、徴用工問題に関して「国民徴用令に基づくもので給料も支払われており…強制連行して酷使したものではない」「理不尽な賠償請求に対してはびた一文払ってはならない」など平然と嘘、誹謗の発言。「韓国・中国に対する日本政府のだらしない外交に私たち国民は腹が立っている」「もっと毅然としたことを言えないのか」など会社の経営方針・株主の利益とは全く関係のない主張が繰り返された。

 一方、請求は棄却されたものの、日本の裁判所でも「実質的に強制労働に該当し違法と言わざるを得ない」(大阪地裁判決)と不法行為が認定されている。判決に従うことがコンプライアンス(法令遵守)であり、企業の社会的責任を果たすことになる。

 7月1日、政府は半導体製造などに必要な材料の韓国向け輸出を「規制」=経済制裁を行うと発表した。これを契機に韓国内でも急速に反発が広がり、日本製品の不買運動などが呼びかけられる事態に至った。日本経済新聞でさえ「元徴用工巡る対抗措置の応酬を自制せよ」との社説を出したほどだ。問題の根本解決は政府間の対話で図るべきだが、まず強制労働を強いた当事者がその責任を認めることから始めなければならない。事態をここまで混乱に導いた責任は、植民地支配責任を認めない安倍政権の「歴史修正主義」だけでなく、不法行為責任を棚上げにして政府の陰に隠れて責任を免れようとする日本製鉄にもある。何度も声を大にして言いたい。日本製鉄は大法院判決をただちに履行せよ!

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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