2019年07月26日 1585号

【ホルムズ海峡派兵を許すな/トランプが求める「有志連合」艦隊/「血の同盟」の実行狙う安倍首相】

 米・イラン情勢が緊迫する中、トランプ米政権はイラン沖のホルムズ海峡などを航行する民間船舶の安全を確保するためと称して、多国籍の有志連合を結成する方針を打ち出した。日本政府にもすでに協力を打診しているという(7/11日経)。戦争につながる自衛隊派兵を認めるのか、否か―。参院選の大きな争点が急浮上してきた。


日本にも協力要請

 米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は7月9日、「有志連合護衛艦隊」の結成計画を公表した。ペルシャ湾の出口にあたりエネルギー輸送の世界的要衝である中東ホルムズ海峡などで、石油タンカー等の警備・護衛活動を行うという。

 米国とイランの対立が深まる中、ホルムズ海峡周辺では日本を含む複数のタンカーが攻撃される事件が発生。トランプ大統領は日本や中国を名指しして、「なぜ米国が他国のために無報酬で航路を守っているのか。自国の船は自国で守るべきだ」とツイッターで不満をぶちまけていた。

 この考えにもとづき、有志連合計画では参加国の軍隊が自国の船舶を護衛し、米軍は指揮統制や情報収集などにあたる仕組みが想定されているという。ダンフォード議長は、7月末までに参加国を見極め「任務に何が必要かを軍同士で協議する」と語った。

 日本経済新聞の報道(7/11付1面)によれば、米側は日本政府に協力を打診済みとされる。この件について、野上浩太郎官房副長官は「日米で緊密なやりとりをしているが、詳細は差し控えたい」とかわした。岩屋毅防衛相は「現段階で自衛隊を派遣することは考えていない」と記者会見で語った(7/16)。

 軍事的緊張が高まるイラン周辺海域への自衛隊派兵を公言すると、武力衝突や交戦を懸念する声が当然高まる。参院選への影響を避けたい政府としては、「現段階」では慎重な言い回しをせざるを得ないということだ。

法を曲げても派兵

 本音を言えない政府関係者に成り代わり、安倍応援団は「自衛隊派兵」の太鼓を鳴らし始めた。産経新聞は「日本向けのタンカーの護衛を他国に任せきりにして、日本は関わらないという無責任な選択肢はとり得ない。…自衛隊の派遣を通じて日本が応分の負担をするのは当たり前だ」(7/13主張)とした。

 すっかり安倍礼賛コメンテーターと化した長谷川幸洋(元東京新聞論説副主幹)は、「日本は米国が求めるなら、米国とともにホルムズ海峡の海上警備に参加する。それ以外に選択肢はない」(7/12現代ビジネス)と断じた。

 新聞各紙は「検討すべき課題は多い」(7/12朝日)としながらも、有志連合参加の形態別に根拠となる国内法をあれこれ論じている。自衛隊法に基づく「海上警備行動」なのか、ソマリア沖で実績がある海賊対処法でいくのか、安全保障関連法の一つである国際平和支援法を使うのか、それとも新たな特別措置法を制定するのか等々。

 しかし確実に言えるのは、安倍政権は法的整合性など気にしていないということだ。無理筋の解釈を編み出してでも、自衛隊派兵を強行しようとするに決まっている。安倍晋三首相は、持論の「米国と対等な関係=血の同盟」を確立するチャンスだと、とらえているのではないか。

 安倍は著書『この国を守る決意』でこう語っている。「軍事同盟というのは“血の同盟”です。日本がもし外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流します。しかし今の憲法解釈のもとでは、日本の自衛隊は、少なくともアメリカが攻撃されたときに血を流すことはないのです。…完全なイコールパートナーと言えるでしょうか」

 この安倍論法が早くも使われ始めている。元自衛官の佐藤正久外務副大臣は出演したネットテレビ番組(6/29)で、日本のタンカーを救うために米兵が戦死した事件(2004年)があったと述べ、こう強調した。米軍が「同じ活動をしている仲間を助けるのは当たり前だ」と言ってくれたのは、「私たち陸上自衛隊がイラクで人道支援をやっていたからだ」と。

外交的解決の道を

 参院選で大負けでもしない限り、安倍政権が自衛隊のホルムズ海峡派兵に向け、大宣伝を開始することは目に見えている。殺し文句は「石油輸送の防衛は日本経済の死活問題」であろう。そして、派兵した後は「自衛隊に感謝を」として、自衛隊明記改憲の口実に使う―。それぐらいのシナリオは描いているはずだ。

 連中が行うであろう「石油危機」の大合唱に浮足立ってはいけない。今日の緊張状態はトランプ大統領自身がもたらしたものである。トランプはイランとの核合意から一方的に離脱し、経済制裁を復活させた。さらには米軍の無人偵察機がイランに撃墜された報復措置として、同国の軍事施設を攻撃する指令を出した(攻撃10分前に中止)。

 軍事的緊張を自ら煽っておいて、「他国もタンカー防衛に軍事力を差し出せ」だなんてマッチポンプにもほどがある。核合意当事国でもあるドイツやフランスは、トランプ政権とは一線を画し、あくまでも外交的な解決を模索している。イランと友好関係を築いてきた日本がとるべきはこの道だ。トランプが作ろうとしている対イラン包囲網に加わることではない。

 もっとも、「米国と対等な帝国ニッポン」を夢見る安倍首相に理性的な判断など望むべくもない。だからこそ参院選で痛撃を与え、好き勝手ができないようにしなければならないのである。  (M)

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