2019年08月02日 1586号

【2019参院選結果をどう見るか/改憲勢力3分の2を許さず/「あきらめ」を振り払う政策を】

 参議院選挙の結果、自民・公明の議席は改選前から7議席減った。改憲発議に必要な議員数3分の2は、維新の議席を加えても足らなくなった。与党と立憲野党の一騎打ちとなった1人区で自民の議席を奪った成果だ。だが、戦後2番目に低い投票率は大きな課題だ。生活破壊の元凶、安倍政権に対する怒りの声は投票行動には十分結びつかなかった。安倍を追いつめる力は、生活のあらゆる分野で安倍政権に対する市民の闘いだ。立憲野党が合意した政策を1歩も2歩も先に進め、実現に全力をあげることだ。

自民10議席減

 7月21日投開票の第25回参院選挙。改憲発議に必要な3分の2議席を安倍政権が手にするのかどうかが、大きな政治的焦点であった。

 改選67議席の確保をめざした自民党は10議席減。公明党、維新が議席を増やしたが、保守無党派3議席を加えても改憲勢力は160議席となり、3分の2(164議席)を占めることはなかった。



 改憲発議議席獲得に失敗した安倍だが、選挙後の報道番組で「任期中(21年9月)に(改憲を)実現したい」と答えている。「国民民主党に改憲の考えを持つ人は多い」と、早くも野党の結束を崩しにかにかっている。

 選挙中の改憲発言も、むしろ野党分断を狙ったものだった。「議論さえしない野党。対案を示さない野党」。野党がこれに反論してくれば、消費税増税や老後2000万円問題、経済特区による便宜供与など尽きることがないウィーク・ポイントの追及をかわすことはできる。そんな思惑が透けて見えた。

 マスコミは「自公過半数」と与党が信任されたかのように報道するが、自民党の支持票は比例代表で230万票減った。絶対得票率は19・6%から16・6%へと3ポイント減っている。自民党離れは確実に進んでいる。


野党共闘で10勝

 安倍が野党分断に必死になるのは、危機感の表れだ。6年前、自民は31(当時)の1人区で圧勝。非自民が議席を得たのは沖縄・岩手の2選挙区に過ぎなかった。野党共闘が進まなかったからだ。15年に「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」が結成された。安倍の暴走を止めるために「野党は共闘」と声を上げた。市民運動が野党間の接着剤役を担った。

 野党共闘が成立した16年の参院選。改選1人区32のうち11選挙区で自民を破った。そして今回、10議席を得た。現職の自民党議員に野党新人が勝利したのだ。

 自民党は党独自の調査により、接戦となっている「重点区」に安倍や党幹部が連日応援に入る態勢をとった。だが野党統一候補は、東北4県をはじめ16年とほぼ同じ議席を獲得。前回勝利した青森、山梨、三重で惜敗したが、愛媛、滋賀で議席を得た。

 安倍の野党分断「野合」批判を跳ね返したのは、市民の提示する政策をもとにした野党共闘のパターンが定着したことにある。13項目の政策合意は「改憲発議そのものをさせないために全力を尽くすこと」に始まる。どんな揺さぶりにも、この確認事項に立ち返ればいい。

 激戦だった滋賀県選挙区。自民党は現職を守る「重点区」として安倍、菅義偉(すがよしひで)、小泉進次郎が応援に入った。一方、野党統一候補は、17年衆院選では共闘不成立だった嘉田由紀子(前滋賀県知事)。16年の参院選では「野合」批判に力を発揮できなかった野党共闘だが、今回嘉田を統一候補とし勝利できたのは、市民の共闘組織「総がかり行動・しが」の底支えがあったからだ(4面に関連記事)。

 安倍政権打倒へ、市民と野党共闘の流れは一層確かなものになった。

政策実現する運動を

 だが政治を変えるには大きな課題がある。低迷する投票率だ。50%半ばを推移していた参院選投票率は今回、50%を切った。有権者の半数以上5400万人が投票しなかった。95年、阪神淡路大震災の時が44・52%で戦後最悪。それに次ぐ48・8%だ。

 自民党に投票する人は明らかに減っている。だが、野党支持票へとは向かっていない。その理由は、安倍政権にかわる希望が持てる政策選択がリアリティをもって伝わっていないからだ。

 例えば、「れいわ新選組」(れいわ)は2議席を得た。得票率4・5%、228万票は社民党の2倍。共産党の2分の1にあたる。れいわに共鳴する40歳の男性は、かつて立憲民主党を「この党こそ私たちの代表だ」と支援した。だが今、野党の主張を「エリートたちが考えた政策」と評し、「上から目線」を感じるという(7/20毎日)。れいわは「奨学金チャラ」などと、政治から距離を置く若者に届く工夫をしている。改憲阻止などを除けば、街頭での訴えでは、他の野党とれいわの政策に大差はない。マスコミが選挙報道そのものを控える中で、有権者に政策を届ける工夫はもっとする必要がありそうだ。

 だが、問題は「与党は好きじゃないけど、今の野党に世の中を変える力があるとは思えない」(70歳男性、同)と、現状を変えられない既存政党への根強い不信感だ。

 米大統領選のトランプや欧州の排外主義政党が支持される背景に既存政治家に対する不信感があった。これに対し、英国労働党のコービン、米国のサンダースやDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)など欧米の民主主義的社会主義勢力、反緊縮運動は根本的な政策転換とその展望を示し、支持を広げている。

 日本でも、現状が変わらないことへのいら立ちは渦巻いている。この不満を政治変革の力へと変えるには、野党の合意した政策を実現する可能性を示すことだ。社会保障の充実にむけどんな政策を掲げるのか、具体化しなければならない。

 野党にその力を発揮させるのは、それを支える市民運動にあることは間違いない。あらゆる分野で安倍政権と闘う市民運動の強化が、政権交代を準備する。
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