2019年08月09日 1587号

【うごめくホルムズ海峡派兵/武力行使の機会うかがう安倍/参院選市民・野党合意を運動に】

 参院選中に争点化することを避けてきた自衛隊ホルムズ海峡派兵が動き出した。安倍政権は表向き「慎重姿勢」を口にはしているが、自衛隊派兵の機会をうかがっている。参院選で戦争法廃止を掲げた市民と立憲野党の共通政策実現への運動強化が派兵を押しとどめる。


緊張高める有志連合

 参院選投開票翌日の7月22日、ボルトン米大統領補佐官が谷内正太郎国家安全保障局長、岩屋毅防衛相、河野太郎外相と相次いで会談した。

 続いて7月25日、ポンペオ国務長官がホルムズ海峡での有志連合構想について日本などに参加要請したことを明らかにし、「原油などの製品がホルムズ海峡を通過するのを確保することで利益を得ているすべての国は、自国の利益だけでなく、自由で開かれた航路の基本的考えを守るため、参加する必要がある」と強調した。要請先は英国、フランス、ドイツ、ノルウェー、日本、韓国、オーストラリアだ。

 同日、米中央軍は有志連合の結成に向け、「同盟国・友好国」60か国を集めた第2回会合を開催し、第1回会合より詳細な警備行動を説明。あわせて「海上の監視能力を強化し、安定化を図ることが狙いだ」「航行の安全を促進し、緊張緩和にも資するものだ」などとする声明を出した。

 だが、今も米国、イラン双方の挑発と報復の応酬となっている。有志連合の結成は「緊張緩和に資する」どころか、いっそうの緊張激化につながることは明らかだ。

距離置く欧州と真逆

 そもそも、事の発端は2018年にトランプ大統領が「イラン核合意は機能していない」と一方的に離脱し、経済制裁を強化したことだ。朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と違いイランはIAEA(国際原子力機関)の査察も全面的に受け入れており、核合意は国連が承認している。離脱の理由にはなんの正当性もない。

 核合意の破壊は、欧州各国政府にとっては「核安全保障」の問題であり、日本政府にとっても自ら掲げる「エネルギー安全保障」上の重大問題であるはずだ。ホルムズ海峡は日本向けの石油タンカーが1日90隻も通過し、その量は日本が輸入する原油の8割に上る。

 その危機の原因をつくったトランプが派兵を迫る。これほどの身勝手はない。

 だから欧州諸国は米国による有志連合結成に距離を置く。ドイツは「今は何よりも外交の時間だ」(独国防相)と外交解決の姿勢を示し、仏国防相も新たな戦力投入には否定的だ。イラク戦争で米国と歩調を合わせた英国すら、米国抜きの欧州による有志連合構想を提唱している。これ以上トランプに振り回されたくはない≠ニいうのが本音だ。

 一方、日本政府は米中央軍会合について公式には「現地の連絡官からの報告を受けた上で、今後の対応を検討する」(菅義偉〈よしひで〉官房長官)としか言わないが、米国務次官補が来日し国家安全保障局長、外務省事務次官、防衛省防衛政策局長と会談するなど事務レベルでの協議が進んでいることは間違いない。参院選への影響を危惧した安倍内閣は米国からの要請内容などひた隠しにしてきたが、ここにきて参加表明のタイミングを計っている。

自衛隊は出させない

 トランプの対イラン政策は、原油供給をホルムズ海峡に依存する日本にとって迷惑きわまりない。まともに考えれば、有志連合参加の呼びかけをはねつけ、核合意復帰を求めるべきだが、そうはしない。むしろトランプやポンペオに「日本の船は日本が守れ」と言わせれば言わせるほど、安倍にとって戦争法発動の好機となる。

 2015年に安倍が強行した戦争法は、存立危機事態、重要影響事態、国際平和共同対処事態などさまざまな機会を捉えて自衛隊海外派兵・武力行使を可能とする。国会審議過程で安倍は「ホルムズ海峡の機雷撤去」も一時その対象としていた。戦争法に従来政府が強行してきた海上警備行動などと合わせれば、その機会は無制限に広がり、自衛隊が紛争地帯に近づけば近づくほど安倍にとって武力行使の選択肢が広がっていく。

 しかも、自衛隊は、アフリカ東部ジブチ共和国に恒久基地を持ち、実質的に陸海空統合部隊拠点となっている。ジプチからホルムズ海峡へはアラビア半島を迂回することとなるため、有志連合参加はその機能強化や第2、第3の海外基地設置の口実に使われかねない。

 市民連合・立憲野党合意を参院選限りとせず、直ちに戦争法廃止・改憲阻止の運動を拡大しなければならない。





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