2019年08月09日 1587号

【「改憲議論が審判」という嘘/改憲アピールは響かなかったのに…/民意をねじ曲げる安倍の詭弁術】

 安倍首相が「憲法改正」を争点に掲げてのぞんだ参院選。自民党は議席数を減らし、改憲勢力は参院において国会発議に必要な「3分の2」を割り込んだ。ところが、安倍首相は「議論すべきというのが国民の審判だ」と述べ、野党側に「民意を受けとめよ」と迫る始末。これはもう強がりというより詭弁だ。民意をねじ曲げるなと言いたい。

改憲路線は後退

 新聞界の安倍応援団といえば、読売新聞と産経新聞である。「読売」が政府広報紙とすれば、「産経」は安倍ファンクラブ会報と言われる。そんな両紙が今回の参院選結果について対照的な伝え方をした。7月22日付朝刊の1面記事を比べてみよう。

 「産経」は「改憲勢力3分の2割れ」がトップ見出し。最大の関心事を見出しで強調したというわけだ。これに対し、「読売」のトップ見出しは「与党勝利改選過半数/1人区自民22勝10敗」。紙面全体が「与党大勝」を印象づける構成になっており、「3分の2割れ」の見出しは紙面下半分のところにある。

 「3分の2」喪失のショックをストレートに打ち出した「産経」に対し、「読売」は安倍政権が触れてほしくない事実を印象操作で薄めようとした。いずれにせよ、今回の選挙結果は改憲推進の安倍応援団にとって大きな衝撃だったということだ。

 投開票日(7/21)の夕刻、安倍晋三首相は麻生太郎副総理を私邸に招き、今後の政治日程に触れる中で「憲法改正をやるつもりだ」と語ったという(7/22産経)。この時点では「3分の2」を維持できると思っていたらしい。ところが開票が進むにつれ、想定以上の苦戦が明らかになった。結局、自民党は改選前より10議席も減らした。首相自ら応援に乗り込んだ重点区での相次ぐ敗北が響いた。

 では、改憲路線の後退という現実を安倍首相は真摯に受け止めたのか。答え、カエルの面に小便であった。テレビの開票特番をはしごした安倍は「民意は『議論せよ』ということだろうと思います。私の使命として、残された任期の中で、当然、憲法改正に挑んでいきたい」と、くり返し訴えたのである。

世論は求めていない

 安倍首相の論法は以下のとおりだ。(1)この選挙では憲法改正も大きな争点となった。自民党は「議論を前に進める政党を選ぶのか、それとも議論すら拒否する政党を選ぶのか」と訴えてきた。(2)自民・公明の与党は改選過半数を獲得した。(3)よって、「改憲の議論を行うべき」が国民の審判である―。

 屁理屈以下の嘘八百だ。まず、有権者は「憲法改正」が参院選の争点とは受け止めていない。産経新聞とFNNが選挙期間中(7/14〜7/15)に行った世論調査で、最も重視する政策を尋ねたところ、「医療・年金・介護など社会保障」42・5%が一番多く、「景気・経済対策」20・6%が続いた。「憲法改正」はたった5・1%。自民支持層でも5・7%なのだ。

 開票結果を受けた朝日新聞の世論調査(7/22〜7/23)は「安倍首相に一番力を入れてほしい政策」を5択で聞いているが、「年金などの社会保障」が38%で最も高く、「憲法改正」は3%で最も低かった。参院選の比例区で自民党に投票した人に限っても「社会保障」39%に対し、「憲法改正」は4%であった。

 「安倍首相の下での改憲」には「賛成」が31%で、「反対」46%を下回った。同じ日程で行われた共同通信の世論調査にも同様の質問があるが、こちらは「賛成」32・2%、「反対」56%であった。

 論より証拠。今回の参院選で有権者が下した審判が「改憲議論の推進」ではないことがわかる。


さすが偽造の常習犯

 実は、安倍首相本人も改憲を正面から訴え続けたわけではない。特に公明党の候補者の応援に入った際は、支持者の反発を避けるため改憲アピールを封印した。首相がこの調子だから、目の前の票が欲しい自民党候補者はなおさらだ。選挙区の取材に入った産経新聞の記者が「熱量は感じられない」と嘆いたほどだ。

 激戦区のひとつ、大分選挙区を例に挙げよう。応援に入った安倍首相は「自衛隊明記改憲」の必要性を街頭演説で訴えたが、自民現職の礒崎陽輔候補は憲法の話題にまったく触れなかった(7/11産経)。礒崎は自民党の憲法改正推進本部で要職を歴任している。つまり改憲草案をまとめた中心人物ですら、「憲法改正」を掲げて選挙を戦うことができなかったのだ。

 その礒崎は野党統一候補に敗れ落選した。安倍首相の猛プッシュは大分県民の理解を得られなかった。大分だけではない。全国的に見ても、安倍の改憲アピールは有権者に響かなかった。それで「改憲議論を行うべきだという審判を受けた」など、よくぬけぬけと言えるものだ。

 常識的には理解できない言動だが、疑問に思われた方には「だって安倍だもの」と答えるほかない。安倍政権は証拠隠滅やデータ偽造の常習犯である。民意の歪曲も平気だ。こんな連中に「憲法改正」を語る資格はない。(M)

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