2019年08月16・23日 1588号

【DSA(アメリカ民主主義的社会主義者)大会 過去最大で開催 新時代を切り開く自信みなぎる すみずみまで徹底される民主主義】

 8月2〜4日、米国南部ジョージア州の州都アトランタ市で、全米最大の社会主義団体DSA(アメリカ民主主義的社会主義者)の大会が開催された。招請を受け、ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)、MDS(民主主義的社会主義運動)を代表して出席した日南田成志さんに、前進するDSAの息吹を伝えてもらった。

若者が圧倒的多数

 DSAの大会は隔年で開催され、私が参加した今大会には米国すべての州から1057人の代議員が結集した。ほんの数年前まで社会主義を口にすることすらはばかられていたグローバル資本主義の中枢アメリカで、これだけの数の、しかもその圧倒的多数が30代以下の若者で構成された社会主義者が一堂に会するのは、戦後初めてのことである。参加者の表情には、自分たちこそ新しい時代を切り開いているという自信とDSA史上最大規模となった大会への期待感がみなぎっていた。

 代議員の約9割は180の支部から選ばれた支部選出代議員であり、残りがまだ支部組織のない地域の会員から選挙で選ばれたメンバーだ。ニューヨーク市のように120人もの代議員を送っている巨大な支部もあれば、代議員が1〜2人のまだ結成されて間もない小さな支部も多い。平均すれば1支部数人の代議員で、大会初参加という若者も相当数に上る。

 それもそのはずだ。民主主義的社会主義者を公言するバーニー・サンダースが大統領選に出馬したのが2015年。翌年トランプが大統領に就任して多くの民主的市民が危機感を覚え、2018年中間選挙でDSAは初めて下院議員を実現した。DSAは、この短い政治過程で爆発的に拡大してきたのだから。

 大会には89本の決議案と9本の修正案、さらにDSAの規約と細則の改訂案が38本提出された。それらの多くは、自分たち自身の予想をもはるかに超えるテンポで進む組織の急拡大に対応して、さらに組織をより強くより民主的な構造にし、情勢から要請される闘いを有効にかつ迅速に進めていくための決議案であり、規約の改訂案であった。

全代議員が平等に意見

 半年前から全国政治委員会の中に設置された大会準備委員会が、すべての決議案のタイトル、提案者、所属支部、提案理由、決議実行のための必要経費を同一書式に整理し、スクリーンに写しながら丁寧かつ徹底的な討論が効率的に繰り広げられた。

 それでも、千人以上の代議員が大ホールのフロアにぎっしりと着席し、積極的に様々な意見表明をする大会の議事進行は並大抵のことではない。動議が連発され進行が混乱しかけることもたびたびあった。が、そのような時、すべての代議員が平等に意見表明でき、どの立場からも公平な議事進行がなされるための保障として、百年以上の歴史がある「ロバート議事規則」(米議会の規則をもとに一般の会議でも活用できるようにされた権威ある議事進行規則)に厳密に沿うことが、議長から何度も表明される。議長も判断に迷う時には、大会予算で雇ったパーラメンタリアンと呼ばれるプロの議事進行助言者に相談することも大会規則で決められている。

 大会討論では大きく二つの論点を見てとることができた。

 一つは、急拡大する組織を全国的にしっかりと束ねて民主主義的社会主義組織として成長していくために、全国政治委員会により多くの権限を与え、決議の実行を全国的により統一的に展開していこうと主張する流れ。もう一つは、その流れが非民主的官僚的組織に帰結しかねないとの警戒から、各地域の支部により多くの権限と自主性を与えていこうとする流れだ。

 中央と各地域の予算配分や新会員への政治教育の進め方等を含め、この二つの流れが議論の対抗軸となっていた。ある古参の代議員によれば、採択された決議の55%が前者、45%が後者にあたるとのことだった。

差別根絶の発言に感動

 DSAは、民主主義的社会主義の実現を掲げて闘う組織だが、政治綱領(プログラム)は持っていない。それを説明するのに、民主主義的社会主義という大きなテントの下に様々な社会主義者が結集している≠ニいう説明をよく耳にした。「多元的かつ複数の政治的潮流を内包する組織」と公式にも説明されている。

 具体的には、DSA内には大小10以上のコーカス(活動家集団)が存在し、支部を超えて全国的なネットワークを作っている。地域での組織建設により重点を置く「ビルド」、左派の傾向の強い「ブレッド&ロージズ」の他、社会的多数派ネットワーク、環境社会主義、アフロ連帯等々。それぞれが戦後アメリカの社会主義運動の中で様々な歴史的背景を持ってDSAのテントに結集している。DSAはこの特徴をむしろ自らの長所としてとらえようとしている。

 もちろんどのコーカスにも属さない代議員もいるが、属している場合は自分がどのコーカス所属かをはっきりと告げて討論に参加していた。

 堂々と発言する代議員の中には、自閉症やADHD(注意欠陥・多動性障害)など見えにくい障害を持つ人、性暴力を受け精神疾患を患っている元性産業労働者、数年間失業とホームレスを経験した非正規労働者など、本当に多様な人がいた。それぞれの立場から差別と貧困の根絶を訴え、そのためにこそ民主主義的社会主義を実現するんだと主張する姿は、感動的だった。聴覚過敏の障害を持つ代議員の大会参加を保障するために、拍手ではなくASL(アメリカ手話)アプローズと呼ばれる手話の拍手(両手を高くあげて手の平と指をひらひらさせる)を千人の代議員が実行する。これも、自分たちの組織のありとあらゆる営みから差別と分断を排除し、民主主義を徹底する、それが民主主義的社会主義者としてあたりまえの生き方だと、身をもって示しているように思える。

米国社会に地殻変動

 前回2017年シカゴ大会では、DSAが総力をあげて取り組む3つの方針が確認された。すべての人を一元的にカバーする医療保険制度(メディケア・フォー・オール)、労働運動との連携、選挙キャンペーンの強化だ。今回の大会では、これら3つの柱は継続され、さらにエコ社会主義の立場からグリーン・ニューディールの推進が4番目の柱として加えられた。

 最終日の午後、新たな16人の全国政治委員会のメンバーの選挙結果が発表された。様々なコーカスから32人が立候補していた。全代議員のデジタル投票による得票に、ジェンダー、人種、セクシャルマイノリティー、青年DSA等への人数枠を加味して選出される。コーカスに人数枠はないが、偶然どのコーカスも過半数を占めることはなかった。

 最後に議長が大会終了を告げると、司会から『連帯よ永遠に』と『インターナショナル』の合唱が呼びかけられ、参加者は肩を組んで大合唱。千人の大ホールを揺るがした。

 アメリカ社会にはっきりと地殻変動がおきている。続こう、日本、東アジア、全世界から。





 
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