2019年09月13日 1591号

【どうみるGSOMIA終了/日米韓の軍事一体化に亀裂/対立解消は植民地支配の清算から】

 日本政府は韓国への輸出管理強化を実行し、韓国政府は日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了を通告した。これまで「静観」していた米政府も表立った動きを見せている。東アジアの和平を進める上で、この状況をどう見ればよいのか。

Q.GSOMIA破棄も報復合戦をエスカレートさせるのではないですか。

 GSOMIA破棄で日韓両政府間の対立が深まるのは確かです。しかし、日韓GSOMIAは日米韓軍事一体化を強化するためのもの。韓国政府の意図は別にして、終了決定は歓迎すべきことです。

 GSOMIAとは何か、確認しておきましょう。

 一般的に2国間や複数国間で結ばれる軍事情報包括保護協定とは、提供された軍事情報を第3国に漏らさない取り決めです。漏洩しない保証があれば、より機密性の高い情報が提供できるというわけです。ちなみに日本は7か国と韓国は21か国と結んでいます。

 日韓の間では2016年11月に結ばれ、1年ごとの自動更新。90日前までに通告すれば終了。韓国政府の通告で、11月23日に失効します。

 日韓GSOMIA締結には多くの反対運動がありました。韓国は米国とは1987年に締結していますが、日米が締結した07年に、日韓でも同時締結の準備が進んでいました。米国の強い働きかけがあったのです。しかし、韓国内では日本との軍事協力を強めることに激しい抗議行動が起こり、締結できませんでした。結局、16年にサード・ミサイルシステム配備受け入れと同時期に締結にいたりました。

 韓国の終了決定に、米政府はポンぺオ国務長官、エスパー国防長官を筆頭に「強い懸念と失望」を繰り返し表明しています。軍事一体化に支障が出るからです。サード・ミサイル、Xバンド・レーダー、イージス・アショア、イージス艦、F35戦闘機など、これらはみな電子情報をリアルタイムで共有しなければ機能しない軍事システムです。GSOMIA解消後は、米国を媒介とした情報共有取り決め(TISA)によることになり、共有する情報の水準は落ちるといわれています。

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)を仮想敵国として増強してきた3国の軍事態勢が、東アジア和平へのうねりの中で軋(きし)みが生じているのです。

 日本国内では「得をするのは北朝鮮や中国、ロシアだ」などとする批判があふれています。軍事圧力をかけろということでしょうか。平和をめざす立場ではありません。軍事緊張を高める行為には断固反対しなければなりません。


Q.日韓の「報復合戦」はどう解決すればよいのでしょうか

 「報復合戦」の発端となった問題を解決する必要があります。日韓両政府の対立は昨年12月の韓国大法院徴用工判決で決定的になりました。日本政府は「日韓請求権協定で解決済み」との見解にたって、判決は「国際法違反」だと韓国たたきを始めました(判決の意義、日本政府の言いがかりについてはこれまでの本紙の記事をご覧ください)。

 韓国政府は、請求権協定には個人の請求権は含まれないとの立場から、「日韓企業による基金」案など解決策を示していました。ここで誠実な協議が行われていれば、その後の対立はなかったはずです。

 しかし、日本政府は「国際条約を破った韓国が悪い」の一点張り。「国際法を守らないような信用できない国」だから「安全保障上の問題から輸出許可の優遇を取り消す」と安保を絡めて経済制裁を強行しました。否定しようのない植民地支配の不当性に焦点が当たるのを避けようと問題をすりかえたのです。

 日本政府に「安全保障上も信用できない国」と言われた韓国政府はGSOMIA終了を決めたわけです。韓国政府は談話(8/22)の中で、米政府が日韓両政府に対立をエスカレートさせないよう「スタンドスティル(停止)合意」を提案していたこと、日本政府はこの提案の存在すら否定し、対話をかたくなに拒否してきたことを暴露しました。

 この経緯を見れば、発端である植民地支配に対する謝罪と補償を行うことを抜きに日韓の関係改善は困難でしょう。東アジアの平和にとっても、戦後補償問題の解決は避けて通れません。

Q.東アジアの和平を進めるには、どうすればよいでしょうか。

 南北、米朝首脳会談が実現した状況に立ち返えることです。「軍事緊張ではなく対話」を求めることです。この点から、日米韓それぞれの政府の行動を厳しく批判しなければなりません。

 韓国政府は8月25、26日に竹島(独島)周辺で軍事演習を行いました。日韓関係に配慮し6月の予定を延期してきたのに、今再開するのは明らかに挑発行為です。また米韓軍事同盟強化をうたい、軍事費拡大、軍事衛星の打ち上げなどを公言しています。

 トランプ大統領はG7の席上で文在寅(ムンジェイン)大統領を「信用できない男」と非難したと報道されています。これまで朝鮮半島の緊張緩和を先導してきたのは、ろうそく革命で誕生した文在寅政権です。この流れを妨げているのは、経済制裁の解除を先送りしているトランプ政権です。自らの責任をのがれるために南北の分断を謀ろうとしているのでしょう。

 そして安倍政権です。「今度は自分が金正恩(キムジョンウン)委員長に会う」と言っていた安倍は、そんな言葉も忘れてしまったようです。仮に日朝首脳会談が実現したならば、間違いなく戦争責任、植民地支配の清算が議題になるはずです。朝鮮とは請求権協定はないわけですから、「解決済み」と居直ることはできません。

 いま日米韓の政権は、いずれも東アジアの和平の進展より、軍事緊張を高める方が支持率が維持できると計算しています。意図的に排外主義、民族主義を煽っています。それに対抗するには、平和を求める世界中の人びとが声を合わせることです。日韓市民による「東アジアに平和を」共同行動は重要な取り組みです。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS