2019年09月13日 1591号

【どくしょ室/公文書は誰のものか?  公文書管理について考えるための入門書/榎澤幸広・清末愛砂 編集代表 現代人文社 本体1900円+税/公務員ではなく国民のもの】

 「公文書を見たことのある人?」

 授業で学生に質問したが手が上がらない。当たり前か。ところが逆に質問されて答えに窮してしまった。

 「公文書って何ですか? どこへ行けば見られるんですか?」

 なるほど公文書って、そのレベルのものか、などと言っていられない。

 ここ数年、公文書がメディアを賑わせてきた。森友、加計、自衛隊日報、勤労統計。隠蔽・改竄・廃棄・非記録化が頻繁に行われてきたからだ。次々と発覚したが誰も処罰されず、同じことが続く。自殺や不審死が続いても何も解決しない。

 もっとも三菱、東芝、神戸製鋼、レオパレスも負けてはいない。お上がやって許されるなら、民間企業はもっと「自由」でいいはずだ。世界一の「自由主義国家」だ。

 だから公文書も私文書もたいして違いはない、などと言っていられない。

 政策判断のために必要とされる情報の信頼性が確保されていない。これでは民主主義が崩れ落ちるしかない。公文書管理のどこが問題なのか、どうすればよいのかを、はじめの一歩から考え直さなくてはならない。

 本書は中堅・若手の憲法学者が中心となって編んだ。公文書問題のイロハを解説しながら、森友に始まるこの国の闇に迫るための法理論を武器として鍛える試みである。入門書だが、実践的に活用すべき本である。

 第1部 国家権力による情報独占と公文書をめぐる事件。第2部 日本の公文書管理体制。第3部 私たちの身近な暮らしと関係する公文書。第4部 求められる公文書管理制度。

 なぜ公文書は重要なのか。公文書制度は、公文書の管理・運営・保存・廃棄のルールと、情報公開法によって成り立っている。権力が情報を独占し続けることは独裁国家への道だ。だから公務員には憲法尊重擁護義務があるのだ。

 公文書は、国民主権と民主主義にとってどのような意義を有するのか。公文書を規制し、保管する法律はどうなっているのか。歴史上、公文書はどのように作成されたのか。偽造され、隠蔽されてきたのか。

 他方、公文書の公開はどのように進められるのか。公文書を偽造するとどのような犯罪になるのか。行政府・立法府・司法府でそれぞれどう違うのか。国立公文書館はどこにあり、どんな仕事をしているのか。

 こうした基礎知識を身につけて日々のニュースをしっかり読み解こう。国会審議のツボを押さえよう。「ギゾー、ネツゾー、アベシンゾー」の犯罪責任を追及しよう。

 それでは、あなたは答えられるだろうか。次のうち公文書でないものはどれか。

 1 あなたの住民票
 2 あなたの婚姻届
 3 あなたの運転免許証
 4 あなたのパスポート

      (前田 朗)
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