2019年09月20日 1592号

【環境保護社会主義のグリーン・ニューディール 主要な指針(要旨) DSAは全国的な草の根運動へ】

 以下は、アメリカ民主主義的社会主義者(DSA)が2月28日に公表した環境保護のための変革(グリーン・ニューディール=GND)の社会主義的な指針の要旨である。この指針に先立ち、DSAに所属するオカシオコルテス議員らは2月7日、米国政府に環境保護の義務を課す決議案を下院に提出した。8月22日にはサンダース上院議員が民主党の大統領候補として、環境保護のための詳細な「計画」を公表している。DSAは、これらの提案を支持し、指針に沿って草の根からの独自の運動を組織しようとしている。8月のDSA隔年大会でも、GNDはメディケア・フォー・オールなどと並ぶ重点方針の一つとなった。

 人類は生存の危機の瀬戸際に達した。人間の活動は、気候変動による災害と地球における6度目の大量絶滅を引き起こしつつあり、生物多様性の重大な喪失をもたらしている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2018年特別報告書は「社会的な変革と野心的な温室効果ガス削減対策の迅速な実施を怠るなら、気温の上昇を1・5℃に制限し、持続可能な開発を達成する経路を切り開くことは、きわめて困難になるであろう」と警告している。

 しかし、私たちが直面している危機は生態系の崩壊を超えるものでもある。不平等の深まり、民主主義の抑圧、不安定な仕事、人種・ジェンダーの差別による暴力、敵意に満ちた国境の閉鎖、そして終わりのない戦争が、気候の不安定化の土壌となっている。

不平等の危機解決と共に

 私たちは、気候の危機と不平等の危機を一緒に解決しなければならない。フランスでの燃料税に対する黄色いベスト″R議運動のように、財政緊縮政策のもとでの気候救済対策は、人びとの反発を生み出す。化石燃料の採掘から利益を得ている企業は、クリーン・エネルギーは仕事を根絶やしにすると主張し、労働者を環境保護主義者に対立させようと画策してきた。しかし、気候変動の深刻な脅威にさらされている労働者階級と貧しい人びとの生活の質は、正しい移行によって大幅に改善されるであろう。企業資本主義は富を集中するために化石燃料の採掘を優先するのだから、それを持続可能な経済へ取って代えなければならない。GNDによって、搾取的な資本主義から民主主義的な環境保護社会主義への移行に着手することができる。

 私たちが必要とする急進的なGNDは、単一の法案や決議によって導入されるものではない。それは、働く人びとと社会運動の草の根の闘争からしか生まれてこない。私たちは、気候の正義と人類の生存を確保するために必要な米国政治の大いなる左旋回と大規模な構造変動とを引き起こすよう、支持者たちと手を携えて強力で多面的な運動を組織することができる。

資本主義そのものとの闘い

 気候のための闘いは、資本主義そのものとそれを支える無数の抑圧形態との闘争であると、私たちは考えている。したがって私たちは、DSAの組織の内外で、急進的なGNDに関する以下の主要な指針を軸にしつつ運動を組織することを提案する。

(1)2030年までに経済を完全に脱炭素化する。米国は炭素による汚染に対して歴史的な責任を負っている。高度に工業化された社会は、化石燃料による際限なき成長から再生可能なシステムへと移行することが容易である。より速い脱炭素化は、よりいっそう壊滅的な気候転換点を回避する最大のチャンスを与える。排出源での温室効果ガスの排出をやめさせ、過剰な炭素を大気中から除去するプロセスを拡張する取り組みへと、経済のすべての部門を動員しなければならない。

(2)主要なエネルギー体系と資源の管理を民主化する。化石燃料生産業者を国有化し、必要に応じてそれらを速やかに廃止する。公益事業と配電網の公的所有権を確立し、100%の再生可能エネルギーへの移行を民主的に管理するためのエネルギー協同組合とコミュニティ・レベルの太陽光・風力発電プロジェクトとを支援する。単一栽培農場および工場化した農場から、生態系を守る多様な農業へと移行する。自然による炭素回収を可能にするために、国有林、草原、野生生物保護区を大幅に拡大する。

(3)社会的ケアおよび生態系のケアを重視する経済への公正な移行の中心に、労働者階級を位置づける。公共部門で数百万の雇用を創出し、再生可能エネルギー、再生可能な農業、土壌と生態系の回復など重要な部門での脱炭素型インフラ構築への大規模な直接投資に資金を提供し、医療、教育、家事労働などの低炭素型ケア部門への支援を拡大する。これらの方策を通して、労使協定で定められる賃金と給付をともなう仕事を、希望するすべての人に保証する。

(4)生活賃金、医療、育児、住宅、食糧、水、エネルギー、公共交通機関、健全な環境等の不可欠なものをすべての人に保証することで、生活を脱商品化する。全般的な家賃管理を実施することで、市場の力がアフリカ系市民や労働者階級の居住区を地域から追い出さないようにする。気候変動の危険にさらされているコミュニティと協力して、それらコミュニティをより安全な場所へ移転する。

(5)利潤にではなく人びとと地球に役立つように、私たちのコミュニティを改革する。分配、教育、参加型の地域計画、民主的な意思決定の中枢として、「(環境保護優先社会への)移行のための近隣評議会」の創設を促進する。労働者階級、人種差別を受ける人びと、先住民族の居住地区を手始めに、コミュニティの健康と富を築くプロジェクトのために資金を優先する。

(6)非武装化し、脱植民地化するとともに、国際的な連帯と協力にもとづく未来のために努力する。生存を脅かす気候変動に対処し、地球規模の軍事支配という致命的な戦略を廃棄するために、政策を定め、条約に加入する。米国による条約への関与は、世界最大の温室効果ガスの総排出量と1人当たり排出量とに対する歴史的責任に見合わなければならない。地球温暖化の被害を最も受けやすい発展途上国の目標を大きく上回る脱炭素の目標について、北の先進国全体で合意をつくる。

(7)最悪の汚染者から資源と資金を出させ、それらを再分配する。すなわち、富裕層、大企業、環境破壊産業に公正かつ累進的な税を課し、警察、刑務所、政府の肥大化した軍事予算につぎ込まれている資金を引き揚げる。今こそ、この資金を私たちが必要とする変革のために使うときである。

(指針全文は『翻訳資料 グローバル・トレンド No.5』)



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