2019年09月27日 1593号

【続 年金財政検証を斬る/支給できる額ではなく暮らせる年金を/税による最低保障制度必要】

 5年に一度見直される年金財政。厚労省が8月末に公表した2019年の検討結果は、保険料納付期間を引き延ばし、給付開始年齢を75歳に繰り下る「死ぬまで働け」宣言だった(前号参照)。他にも見過ごせないことがある。年金だけでは暮らせない給付額のことだ。年金額は生活に必要な費用からではなく、保険料に応じた払える額として決められている。「健康で文化的な最低限度の生活を保障」(憲法第25条)すべき政府の責任として、税による最低保障年金制度が必要なのだ。

自動削減の仕組み

 年金だけではまともな生活はできない。ところが、さらに減らそうとする仕組みがマクロ経済スライドである。少なくとも物価上昇に応じて引き上げる物価スライドでなければ、生活水準を維持できない。この上げ幅を「マクロ経済」なる指標で抑えようというのだ。

 「マクロ経済」とはこの場合、少子高齢化にともない保険料を納付する人口が減り、年金を受給する高齢者が増えることを意味するに過ぎない。政府は「負担の範囲内で給付水準を自動調整する仕組み」と解説するが、要は「年金制度」が破綻しないよう「払える額」を順次に減らしていく方法である。

 この自動削減の仕組みは04年の制度見直しで導入された。現役男性の手取り所得と年金額の割合(所得代替率)を現行の約6割から5割にまで引き下げていくよう「調整率」が設定されている。

 安倍政権下では13年から19年の7年間で2回発動された。その結果、物価上昇5・3%に対し、年金改定額はマイナス0・8%。上がるどころか6・1%も削られている。

 このマクロ経済スライドがとんでもない事態を引き起こすことが今回の財政検証で明らかになった。国民年金が厚生年金より大幅に削減されてしまうのだ。

年金でも逆進性

 検証を行った6つのケースのうち、例えばケース3では42年後の所得代替率と比べてみると、国民年金では28%削減されるのに対し、厚生年金は2・8%減となっている。実に10倍もの違いがある。ケース5でも、40年後、国民年金39・8%、厚生年金10・7%にそれぞれ所得代替率が低下。3・7倍も違っている。

 なぜそうなるのか。マクロ経済スライドを適用する期間が国民年金と厚生年金では異なるからだ。ケース3では、厚生年金は24年度までの5年間。国民年金では47年度まで続く。23年間は国民年金だけ減っていくことになる。ケース5では、厚生年金は32年度に終わるのに対し、所得代替率が50%となる43年度には国民年金の削減も終了するはずだが、国民年金の財政は均衡せず、58年度まで続ける必要があると試算しているのだ。この場合、所得代替率は44・5%の水準まで下がることになる。この適用期間の違いは国民年金と厚生年金の保険料会計が異なる結果というわけだ。

 国民年金への依存度が高い人(厚生年金加入期間が短い人や自営業や非正規で国民年金のみの人など)にとって大幅な削減が行われる。これらの人は総じて低年金である。つまり、弱者に犠牲を強いる逆進性がさらに強まっていくことになるのだ。

生存権保障の実現

 安定した健全な生活を維持できる年金。同時に、すべての人が無条件で受給できる制度が基本であるべきだ。国民年金の目的はここにある。

 国民年金法第1条は「日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与する」と規定している。

 保険料未納問題が取りざたされる。未納理由は「保険料が高く、経済的に支払うのが困難」が最も多く、70・6%。経済的困難の理由は「もともと収入が少ない、あるいは不安定だったから」が57%、「失業、倒産、天災、事故、病気などにより所得が低下したから」が17・8%(「国民年金被保険者実態調査」2017年)。つまり、払いたくても払えない実態があるのだ。非正規で低賃金の労働者が急増している状況を見れば、容易に理解できる。

 保険制度では限界だ。「国民の共同連帯」という法の理念を活かすには、全額公費により、無条件で受給できる最低保障年金制度を創設すべきなのだ。「年金制度における最低保障」の制度を持つ国はスウェーデンなど23か国あり、決して非現実的な案ではない。

 財源はある。史上最高の内部留保をため込む大企業、株・金融取引で資産を積み上げる超富裕層への課税を強め、不公平な税制をただせば数十兆円規模の財源はすぐ生み出せる。

 誰もが安心して暮らせる最低保障年金の実現。富の再分配だけでなく、生きる権利を実現させていく闘いなのだ。年金・フォー・オール≠フ実現を呼びかけよう。



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