2019年09月27日 1593号

【ドクター ある高齢者の死】

 大企業の健康保険組合で組織する「健康保険組合連合会」(健保連)は9月9日、75歳以上の「後期高齢者の医療費自己負担額を、現行の1割から2割に引き上げる提言を発表しました。テレ朝newsは「これで働く世代負担は1年あたり約500億円減ると試算」と、まるで「働いている人」が500億円得するような詐欺的報道をしています。患者負担が増えればその分は後期高齢者とその家族の負担増になります。「患者の自己負担は年平均700億円増」(9/9毎日新聞)という高齢者の家族の大負担増なのです。総額5兆円を超す軍事費を削って国庫負担を増やし、ぼろ儲けの大企業の利益から回すべきです。

 さらに、健保連は花粉症や湿布など市販薬と同じ成分の医薬品は公的医療保険対象外にすると年間2千億円ほどの節約になるとしています。これらは、患者もほしく、医者もどんどん勧めますので、要は患者負担が増えるだけです。

 最近医問研で知ったショッキングな話を思い出しました。なんと14種類も薬を使っていた高齢者が、医師の間違いで20種の薬に代えられて亡くなったとのことでした。そんな数の薬が必要だったのでしょうか。

 2017年のある調査では、後期高齢者で、薬を5〜9種類を服用している人は41%、10〜14種類が20%、15種類以上が7%もいたそうです。これほど多くの薬が一度に身体に入るとどうなるのかは、わかりません。

 医者が多くの薬を出すのは儲かるからでしょうか。今は、医療機関側に販売の直接的利益はほぼありませんので、調剤薬局に「院外処方」しています。

 高齢者になれば当然多くの病気や症状が現れます。それらに対する診断・治療のガイドラインが作られています。前回書きました高血圧では、収縮期血圧を130以下にすべきなどと書いています。医者は、無批判的に、また責任回避も含めて、高血圧や脂質異常・貧血・糖尿病などにガイドラインの推奨している薬を次々処方します。

 ガイドライン制作者達は、医療界で最強の力をもつ製薬会社と直接・間接の強いつながりを持っています。製薬会社の利益に反するガイドラインを作ることはまずできません。これらの方法で製薬大企業にぼろ儲けをもたらしているのです。

 健保連は花粉症の薬まで自費に、と主張しますが、この薬の多くは明確に効果があります。しかし、血圧の薬は大部分の人に効果があやしく、半分にするだけで3千億円も減らせます。高齢者の不要で有害な薬を減らすことが先決です。

 最近、厚労省も高齢者の多剤服薬の対策に取り組みはじめました。この機会を通じて多剤服用問題を医療・介護現場から訴えて行きたいものです。

    (筆者は小児科医)
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