2000年07月14日発行648号 ロゴ:なんでも診察室

【なぜ相次ぐ医療事故】

 皆さんがビックリされるような医療事故が頻繁に報道されています。私にも身近に迫っている少々重いテーマです。最近、医療事故の保険に入る医者が増えており、学会として保険の取り扱いをしているくらいです。

 さて、医療事故には質的にまったく違うものがあります。二月に発売の油井香代子著『医療事故で死ぬな』(小学館)には、横浜市大病院の患者取り違え事件から、「抗痴呆薬」などの効かない薬の副作用事故まで幅広く紹介されています。後者は、製薬会社の利益のために、企業・学会・厚生省が多数の患者を犠牲にしたものです。私たちは、これを医療事故の重要な課題と考え取り組んできました。今では「抗痴呆薬」の種類が三分の一ほどになり、相当の事故が防げたのではないかと思います。

 このような事故と、夜勤などで疲れた看護婦が意識がもうろうとなり患者を間違えて点滴してしまったような事故とを同列に論じることはできません。

 医療事故は表面に出にくいため増加しているかどうかは難しい問題です。とはいえ、健康保険の料金設定により病院はますます入院期間の短縮を余儀なくされ、検査や治療の密度が高くなる一方で、それらを担っているスタッフの人数は増えていません。なにしろ、アメリカではベッド数に対する職員数は平均六倍なのに、日本では東京都内でベッド当たりの職員数が最も多い三井記念病院でさえ二・一倍、多くの病院はベッド数以下から一・五倍程度です。

 にもかかわらず、医療現場には手術をしてその日に帰る「日帰り手術」などアメリカ並みの治療が要求されています。短期間で高い収入を得るためです。これらが看護婦や医師の労働密度を極端に高め、それがミスを増大させている可能性が強いのです。夜勤で疲れ、ミス寸前で気づいたという経験は多くの看護婦が語っています。

 直接患者に接し、ミスを発見するチェック機構の最終段階に位置する看護婦などの増員が事故減少法の基本です。それと並行して、事故を防ぐ個別対策がなされるべきです。また、わたしたちが先駆けて取り組んでいる医療内容を科学的に見直す「証拠に基づく医療・看護」の実践も、患者のためにならない治療・仕事をやめることで余裕を作り、事故の減少に寄与できると考えています。

     (筆者は小児科医)

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