2000年08月04日発行651号 ロゴ:なんでも診察室

【大量発生した雪印の食中毒】

 雪印乳業のブドウ球菌による食中毒は、約一万四千人の患者を出しました。

 日本では、九六年以後はこの病気の患者は年間千人以下しか届けられていません。世界的な教科書には、この中毒の発生例としてジェット定期便乗客の二百人が発病したことが紹介されています。雪印の例はこの記録を塗り替えるかも知れません。今回の食中毒は、堺のO―157事件とともに、世界に例を見ない大量発生であり、日本の食品供給体制の深刻な状況を反映していると考えられます。

 ところで、今回の食中毒患者の治療についてどんな問題があったのかの情報は出ていません。ブドウ球菌による食中毒の治療は、脱水に対する点滴がほぼすべてですので、余り大きな問題は無かったかもしれません。

 しかし、最近になってO―157の場合は日本の治療法に間違いがあることが証明されました。六月二十九日に発行された世界で最も権威ある医学雑誌に、細菌をやっつける抗生物質をO―157感染に使うと、怖い合併症である溶血性尿毒素症(HUS)の発病が実に十七・三倍になることが発表されたのです。

 食中毒の大部分は細菌感染ですが、多くは抗生物質を使わない方がよいのです。

 不思議に思われるかもしれませんが、これまでも世界的な研究では、O―157の治療をするために抗生物質は薦められないとされていました。しかし、堺市での集団発生当時、日本では抗生物質を投与すべきとの根拠のない情報が氾濫しました。

 その後、堺市の患者分析でも抗生物質の効果を示す証拠が出てこなかったにもかかわらず、ある小児科教授などは、マスコミで抗生物質を使うべきだと繰り返し発言しました。根拠もないこの発言は、製薬会社の利益に配慮しているとしか考えられませんが、日本では多くのO―157患者に抗生物質が使われ続けています。しかし、先の科学的な研究により、抗生物質を使うと何倍もの子どもをHUSにして多くの苦痛をあたえることが証明されたのです。

 市民の健康より企業の利益優先の姿勢を続ける学者も雪印の経営陣と同様の非難を受けるべきではないでしょうか。

     (筆者は小児科医)

ホームページに戻る
Copyright FLAG of UNITY