食中毒事件で操業を停止していた雪印乳業の十工場について、厚生省の専門評価会議は「食品衛生上の重大な問題は特になかった」とする調査結果を発表した。これを受け雪印は、食中毒の発生源である大阪工場を除く全工場の操業を近く再開するという。
津島雄二厚生相は「暑い夏だから、安心して牛乳を飲んでほしい」と発言。「安全宣言」で消費者の「雪印離れ」を解消しようしている。しかし、そう簡単に安心などできるものではない。食品の安全性より利益を優先する食品業界の体質が変わらない限り、第二の雪印事件がいつ起きてもおかしくないからだ。
そもそも企業の都合だけを考えた生産・流通システムが幅をきかせる日本では、ホンモノの牛乳を飲むことすら容易ではなくなってしまっている。
説明しよう。今回の食中毒事件で問題となった製品は、いずれも正式には「加工乳」と呼ばれるものだ。本来、「牛乳」とは乳牛から搾った原料乳に水など他の成分を加えない無調整牛乳のことをさす。
加工乳には工程上雑菌が入りやすいという安全面での問題がある。賞味期限が過ぎた乳製品が再利用で入っていることがあるので、味や品質の面でも無調整牛乳より劣る。
では、無調整牛乳ならみんな同じかというとそうではない。殺菌方法によって大きな違いがある。現在の日本で市販されている牛乳は、約九割が超高温瞬間殺菌(UHT / 一二〇〜一五〇℃で一秒〜三秒殺菌)による製品だ。
このUHTを行うと、牛乳本来の味・香りを損ない、焦げたような味となってしまう。しかも牛乳のタンパク質が熱で変性し、アレルギーの原因となるアレルゲン(抗原)の量が増えたり、発ガン物質ができる疑いすら持たれている。
そのため海外では、UHT牛乳は長期保存用、もしくは衛生状態が著しく悪い開発途上国での加工用としてしか使われない。欧米諸国で牛乳といえば低温殺菌(六二〜六五℃で三十分)が常識。いわゆる先進国の中でUHT牛乳が主流なのは日本だけである。
安全性を疑問視する指摘が多々あり、風味も劣るにもかかわらず、日本の乳製品業界は一九五〇年代からUHT牛乳に生産シフトを移してきた。UHTなら殺菌時間が短く効率が上がるうえ、常温での保存も可能になるため流通コストを削減できるからだ。
かくして日本ではUHT牛乳が当たり前になった。それは牛乳という生鮮食品が「工業製品」化したことを意味している。
生産効率や流通コストのみを優先したニセモノ食品は何も牛乳に限った話ではない。みそ・しょうゆ・日本酒・ビールなど、あげればきりがない。雪印の食中毒事件は「氷山の一角」にすぎないのだ。 (O)