2000年09月29日発行658号 ロゴ:なんでも診察室

【安静は危険?】

 「先生、いつまで安静にしておけばいいですか?」と、よく聞かれます。風邪などでは「熱が下がってまる一日は、無理させないほうがいいですよ」などと私の場合はファジーに答えて、親も適当にしてくれているようです。「まる一日」というのは、翌朝熱が下がっていても、午後にはまた熱が出る病気が多いためで、厳密な根拠があるわけではありません。普通の病気で「一週間は安静です」など断定的に言う医者がいれば根拠を聞いてみてください。

 安静のような古くからの療法の多くは、科学的な評価をされないまま、どこかの権威のある医者が大きな声で言ったとか、医者の狭い経験や病院の都合で決められてきたようです。二十年ほど前までは、小児慢性腎炎で血尿が少々出ているだけでも入院安静でした。当時、欧米の教科書にはそんな治療方針は書いていないので退院させたら、患者は喜びましたが、病室はがらがらになってしまいました。

 安静を指示するのは簡単ですが、守る方は大変です。それが、病気に良いのなら耐えるのも致し方ありませんが、逆だとどうでしょうか。やはり安静も薬や手術と同じく、科学的に評価されるべきです。最近、『ベット上安静―有害かもしれない治療法、もっと注意深い評価が必要』と題した論文を英国の有名医学雑誌で見つけ、看護婦さんとつくっている「根拠に基づく医療・看護研究会」で勉強中です。

 従来の時間的に長い安静方法と短い安静を科学的に比較した世界中の研究を調べています。八種類の病気のデータがあって、ほとんどで従来の安静の方が悪かったという結果です。いくつか紹介しましょう。急性肝炎では、約四週間のベット上安静は、自由に動くより回復が遅かった。いわゆる「ぎっくり腰」で、ベッド上安静は、早く動くより治ゆが遅い。肺結核では二十週間のベッド上安静は自由に動いたより治ゆが悪かった。心筋梗塞で、二十日間寝かす方が、十日より死亡率が高い、などです。ちょっとびっくりしませんか?

 これらのデータから、風邪など急性の感染症ならしんどい間は安静にし、退屈してくれば動き出すという自然の形が良い、と思われます。

     (筆者は小児科医)

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