2000年10月13日発行660号

【ルポ 反グローバリズムに包囲された IMF・世銀プラハ総会 南と北の民衆が新たな出会い】

 ユネスコの世界遺産にも指定された美しい街、チェコの首都プラハ。九月末、旧社会主義国で初めてIMF(国際通貨基金)・世界銀行年次総会の開催地となったこの街にヨーロッパ各国をはじめ世界中から数万人が集い、グローバリゼーションに対抗し貧困と不公正のない二十一世紀をめざす様々な闘いを繰り広げた。

広がるジュビリーの運動

 九月二十四日朝。十字架を掲げた千人を超す人の列がプラハのユダヤ人地区の教会を出発した。途上国の債務帳消しを求めるジュビリー二〇〇〇の人々だ。最前列には、厳粛な葬送の曲を奏でるプラスバンド。債務返済のために毎日一万九千人の子どもたちが死に追いやられている現実を胸に刻みながら、葬列は静かに進む。ヴルタヴァ(モルダウ)川を渡った高台に、永遠の時を刻む巨大なメトロノームがある。その下に参加者たちは十字架を並べた。

 ジュビリー二〇〇〇連合のアン・ペティフォー代表がマイクをとる。「IMFと世銀を操る者たちに通告する。私たちは債務の一〇〇%帳消しの要求を譲らない。途上国の人々の苦痛と絶望を今こそ終わらせなければならない」。世界教会評議会のサム・コビアさん(ケニア)は「南アのアパルトヘイトを終わらせたのは国際連帯の力。グローバル経済もアパルトヘイトそのものだ。われわれの闘い、そして正義をグローバル化しよう」と呼びかけた。

 祈りの後、行進は一転して華やかになった。地球儀を先頭に、色とりどりの横断幕やプラカードが続く。シュプレヒコールもスローガンの棒読みではない。「What do you want(要求は)?」「Drop the debt(債務帳消し)!」「When do you want it(いつ)?」「Now(今すぐ)!」−対話調で、リズミカルだ。

 デモはプラハ一の名所、旧市街広場に近づいた。参加者の一部が、あらかじめ作ってあった大きな鎖を連ねて待ち構えている。その中央をペティフォーさん以下デモ隊が突き破り、債務の鎖を断ち切るパフォーマンスが完成した。

 この行動に最大の人数を送り出したのは、ジュビリー・イギリス。その一人、メアリー・ケインズさんは長距離バスで二晩かけてプラハに着いた。「慈善ではなく正義のため。企業は借金が払えなくても倒産すればいいが、国は倒産できない。そのツケで子どもたちが死んでしまう」と参加の動機を語る。「ジュビリーの運動はクリスチャンだけでなくイスラム教徒やアジア系の人にも広がっている。今では多くの人が、債務が蓄積する仕組みや南北の経済格差のことを理解しています」

 参加者はしかし、ヨーロッパだけにとどまらない。プラハの行動の最大の意義は、日に日に力を増している“南”の民衆の声がヨーロッパの人々のもとに確実に届けられたことだろう。翌二十五日からジュビリー二〇〇〇など三団体が共催した公開フォーラムでの議論が、それを明らかにしている。途上国のNGOから、自国政府の政策に大きな影響力を持つに至った運動の前進が報告されたのだ。

 ボリビアでは、四十万人の債務帳消し署名を力に政府各省や教会、NGOなど約一千団体の代表が集まる全国フォーラムを昨年四月に開いた。ブラジルではこの九月、市民の発意による模擬国民投票に五百五十万人が参加し、九割が債務帳消しに賛成という結果を得た。アルゼンチンでは八月、国会で債務問題の公聴会を開かせた。

”IMF・世銀の解体を”

 怒りを込めた発言で会場を緊張させたのは、南の環境保護団体。ガーナの代表は「八千平方キロあった森林が十八平方キロに減った。債務を負っているのは北の国々だ」と“環境債務”の返済を先進国に迫った。コロンビアの代表は「熱帯雨林は先住民にとってアイデンティティの問題。五百年前の征服者が再びわれわれの大地を犯している」と告発した。インドネシアの代表は「木材輸出の四八%が日本向け。われわれを食い物にしてきた日本に債務を払う意思はない」と言い切った。

 IMFと世銀は昨年九月、PRSP(貧困削減戦略文書)と称する新たな債務削減策を発表した。従来の構造調整政策と異なる点として、途上国の主体性、市民社会とのパートナーシップ、参加型プロセスの形成などを上げている。今回の年次総会前にも、「グローバル経済をすべての人々に」をテーマに三十を超すセミナーを開き、NGOとの対話を演出しようとした。だが、これらの動きに対しても厳しい批判が集中した。

 「IMF・世銀は解体できるし、解体しなければならない」−フォーラム二日目のジュビリー・ニカラグア、アレサンドロ・バンダナさんの発言が、その最も端的な例だ。「彼らは『変化』について語り、われわれの声に耳を貸すかのような素振りを示している。しかし、マクロ経済原理主義・利潤中心主義の本質は何も変わっていない。貧困を経験したことのない彼らとの間に、対話の余地はない」。PRSPが構造調整プログラムの別名にほかならないことは、北の参加者からも指摘された。「IMF・世銀を動かしているのは同じエコノミストたち。彼らの関心は民営化と自由化の推進にある。貧困削減はショーケースにすぎない」(ドイツ)「IMFの改革は不可能だ。南の国々はすでに大幅な支払い超過になっている。必要なのはIMF・世銀に対する民主的規制だ」(イギリス)。

連帯深めた南北の参加者

 九月二十六日。この日から年次総会を開くIMF・世銀そしてこの二つの機関を使って世界を支配するG7と多国籍資本に反対する「グローバル行動の日」だ。集合場所の「平和広場」には朝からトランペットの音やサンバのリズムが響いた。「ボールはIMFに」と書かれたアドバルーン。「私たちの世界は売り物ではない」「プラハをシアトルに」のプラカード。ピンクの風船をなびかせ、ペットボトルに小石を入れた鳴り物を振る若者たち。各国語のシュプレヒコールが飛び交う。数万人のデモは三コースに分かれて会議場のコングレス・センターをめざしたが、警察の阻止線に阻まれた。

 欧米のメディアは一部アナキストの破壊行動を大々的に報じ、「無差別暴力を憎む」などと書き立てた。だが、この日の行動の真の意義は、社会主義崩壊の後、「自由経済」の荒波にさらされつつある東欧諸国の人々に反グローバリズムの世界的闘いの存在を知らせたことにある。国際NGO「地球の友」のメンバーでスロヴァキアから参加したユラシュ・ザムコフスキさんは「民営化で鉄道では三二%の人員が削減された。失業率は二倍に、貧困層は四倍に増えた。IMF・世銀の言葉は信用できない」と語る。反「暴力」報道は、こうした現実を覆い隠すものでしかない。

 ジュビリー・南アフリカのデニス・ブルータスさんは言う。「IMF・世銀がもたらす不安と緊張に比べれば、抗議行動のいかに平和的だったことか。ヨーロッパの人々が示した巨大な連帯は、債務帳消しの闘いがわれわれだけのものでないことを分からせてくれた。IMF・世銀のいかなる戦略もわれわれは拒否する」。ニカラグアのバンダナさんも「プラハはシアトル、ワシントンに続いて多くの希望とエネルギーを生んだ。人間の尊厳を求める世界の市民の運動こそ、IMF・世銀を解体する力だ」と強調した。

 中世のたたずまいを残す街並みに響いた「G7と多国籍資本の世界支配を許すな」の声は、南と北の民衆の新たな出会いをつくり出した。その出会いが一つの力に統一される時、グローバル資本主義を克服した二十一世紀の世界が姿を見せるにちがいない。

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