2000年12月15日発行669号 ロゴ:なんでも診察室

【カゼ症状と解熱剤】

 十一月十六日の朝日新聞と毎日新聞の一面掲載に加え、読売・日経・産経新聞に掲載された記事を覚えておられますか?「解熱剤がインフルエンザ脳症の死亡率を高める」という厚生省発表でした。週刊ポスト十二月八日号にも「インフルエンザに解熱剤は脳症になる」と、私の意見も入れて掲載されました。朝日新聞でコメントした山本英彦氏など医療問題研究会会員はこの問題に取り組んできましたので、解熱剤の怖さを多くの方に知ってもらえたと喜んでいます。

 この問題は医薬ビジランスセンターの浜六郎氏が提議され、私たちも加わって数年前から大阪小児科学会で調査をし始め、来年には一定の結果が出される予定でした。昨年一月に浜氏が、厚生省の研究報告に、解熱剤が脳症の死亡率を高めるというデータが隠れていたと発表しました。今年二月、日本小児科学会に私たちも含めて多くの小児科医がこの問題で公開質問状を出しました。六月には厚生省の研究班が、二種類の解熱剤が脳症を悪化させるかも知れないと発表、十一月十二日に日本小児科学会もインフルエンザに解熱剤の使用は慎重に、と発表しました。

 今回の厚生省の発表内容は、これらの流れに抗しきれずいやいや発表したものですから、いろいろごまかそうとしています。まず、「脳症になってしまった時だけ解熱剤を使うな」としています。インフルエンザ脳症は年間数百人ですから製薬会社にはダメージはありません。脳症になる前の膨大な発熱患者への使用は大丈夫というデータはありません。昨年のデータなどから、むしろ脳症になる前の使用が危ないのです。

 もう一つのごまかしは、禁止が商品名ボルタレンなどのジクロフェナクだけということです。六月の発表では商品名ポンタールなどのメフェナム酸が入っていました。危険な薬ですから禁止すべきです。

 カゼの時、解熱剤で熱を下げると、病気を長引かせることはあっても良くすることはありません。まして、こんな危ない薬はインフルエンザも含めてカゼ症状に使用すべきではありません。また、週刊ポストはカゼとインフルエンザの区別ができるかのように書いていますが、インフルエンザと他の原因によるカゼ症状は名医でも区別がつかない場合が多々あります。

 ですから、カゼの時は解熱剤を使わないことです。どうしても使いたい時だけ、脳症や他の点でも比較的安全なアセトアミノフェン、これがだめな人はイブプロフェンを使うべきです。欧米ではそうしていてインフルエンザ脳症は起こっていません。

     (筆者は小児科医)

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