2001年03月09日発行680号

【自然を食い荒らす公共事業(1) 生態系破壊したダム 波紋呼ぶ田中長野県知事の脱ダム宣言】

 戦時中に匹敵する国債発行残高を抱えながらなおも推進される大型公共事業に国民的批判が高まっている。「公共事業と環境破壊」という観点から各事業(施設)の問題点を検討する。

 長野県の田中康夫知事は二月二十日、「長野県においてはコンクリートのダムをつくるべきではない」とする脱ダム宣言を発表。県が計画しているダムのうち、本体工事に着工していない七か所を原則中止し、森林整備で自然の保水力を高めるなど新たな治水策を模索する考えを示した(2/20朝日夕刊)。

 これに対し扇千景国土交通相は、「何でもやめればいいというものではない」とダム推進の立場を表明している。

森林と海を荒廃させる

 ダムの最大の問題点は、自然の生態系を破壊してしまうことだ。貴重な原生林や人里がダム湖に沈み、希少生物の生息地が破壊される。

 水の循環も断ち切され、川や海が荒廃する。ダムは、海の藻場を育ててきた森林の栄養分(腐食土)をせき止めてしまう。有明海に注ぐ緑川にダムができてから、川口漁協では一日に二十キロとれていたクルマエビが三〜四キロに減り、一年間に三万二千トンだったアサリの水揚げは五千〜八千トンに激減した。

 ダムはまた、産卵のために川をさかのぼるサケやサツキマス・アユなどの行く手を阻み、その生育を妨害する。

 河口に土砂が補充されないため海岸はどんどん浸食され、ウミガメは産卵場所(砂浜)を奪われていく。

砂で埋まり洪水を招く

 そしてダム湖には土砂が溜まり、ダムは水量調節能力を失い、大雨の時などは洪水の危険が増す。長野県飯田市川路地区(旧川路村)は、下流に泰阜ダムができた一九三六年以降、二〜四年ごとに洪水に見舞われた(1/10朝日)。「治水」を名目に建設されたダムが逆に洪水を引き起こしているのだ。

 黒部川の出し平ダム(関西電力)では、溜まった土砂を排出する試みもおこなわれている。だがヘドロ化した土砂の排出で、川も海も汚染される。初めて排砂ゲートが開けられた時(九一年)、川には死んだヤマメやイワナが浮き、養殖ワカメは全滅した。富山湾の漁民は、この十年間に漁獲収入が六分の一に減ったと怒る(1/10朝日)。

ゼネコン救済に計画続行

 紀伊丹生川ダム(和歌山県)は、大阪府と和歌山市への水道水供給を「目的」としている。ところが、大阪府の水道使用量の伸びは予測を大幅に下回り、和歌山市も「新規水源の必要なし」と表明している。にもかかわらず政府は、五億二千万円の環境アセス費を計上した(二〇〇一年度政府予算案)。

 なぜ必要もないダムが建設され続けるのか。それは、膨大な不良債権を抱えるゼネコン(総合建設会社)を救済するためだ。その背景には、国や県がゼネコンに発注した公共事業費の一部が自民党を中心とする政治家に還流するという癒着の構造がある。

 ダム開発に対する疑問は、いまや全世界に広がっている。米国はダムの新設をやめ、既存ダムの解体に着手した。世界銀行が環境保護団体と共に設立した世界ダム委員会は昨年、「ダムが世界各地で広範な環境破壊と人的被害をもたらした」として、代替手段の検討を求める最終報告を発表している。

 日本でも、村ぐるみでダムに反対し断念させた徳島県・木頭村のような事例も生まれてきている。今回の田中知事の決断は、ダム問題を全国民が考えるきっかけとなるに違いない。

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