2001年03月16日発行681号

【沖縄のジュゴン保護 IUCN専門家が予備的調査を批判 政府の二枚舌は許されない】

 ジュゴン保護を求める声に逆らって、のらりくらりと言い逃れを続ける政府に対する世界の自然保護団体からの批判がさらに強まった。このまま国際公約を破って孤立するのか、政府はますます追い詰められてきている。

ジュゴン保護への基準

ヘレン・マーシュIUCN海牛類専門家グループ議長
写真:ヘレン・マーシュIUCN海牛類専門家グループ議長

 ジュゴン保護勧告を昨年十月の大会で決議した国際自然保護連合(IUCN)の海牛類専門家グループ議長ヘレイン・マーシュ教授は、名護新基地の建設予定地周辺の科学的な環境影響評価(アセスメント)の実施を要請する文書(別掲)を橋本龍太郎沖縄担当大臣と川口順子環境大臣に出した(1/29)。

 その文書の中で教授は、(1)空からの目視調査はアセスメントに役立つ情報を提供しない(2)沖縄のジュゴンは世界で最も孤立した希少な個体群(3)局地的な調査よりも環境影響アセスメントが重要(4)特に沖縄地域の他の海草藻場との関連で予定地の海草藻場の環境影響アセスメントが重要―と指摘している。

ジュゴン研究三十年の実績を踏まえた教授の提言は、沖縄のジュゴンの価値とその保護にとって何が重要で、何が無駄か、何から着手しなければならないかを簡潔明瞭に提示している。

 これを基準に政府のごまかしを徹底的に暴露・批判していかねばならない。

全く無駄な予備的調査

 昨年のIUCN大会で日本政府は「自然環境に重大な影響を与えないよう最大限の努力をはらうという政策目標を定めている。代替施設の基本計画の作成より前に、ジュゴンの状況の評価を進めることを決めた。このアセスはできるだけ早くやりとげる」と大見栄をきった。マーシュ教授の提言はその「最大限の努力」がまったく無駄なものであり、「(問題の)引き延ばし策」になりかねないものと痛烈に批判している。

 IUCN大会で政府は「自発的環境影響アセスメント」という言葉を使った。日本の環境アセスメント法に基づくアセスメント(事業計画決定後のアセスメントで、工事着工への手続きに過ぎないとの批判がある)とは別に、計画決定前に「自発的に」アセスメントを実施するような印象を振りまいた。その一方で、国内向けには「代替施設協議会の協議に資するため」の予備的調査も「広義のアセス」と二枚舌を使ってきた。

 環境庁の担当者ですら「三か月でジュゴンのすべてがわかるわけがない」と苦笑する代物が予備的調査だった(11/1)。そして現在でも政府は、基地建設基本計画の策定前にアセスメントを行う方針を明らかにしていない(2/23外務省地球環境課)。

 マーシュ教授の今回の提言は、言い替えれば、“世界の自然保護団体は決してごまかされない”という宣告を政府に突きつけたものである。何が「最大限の努力」か、何が「自発的なアセスメント」かを政府は回答しなければならない。

国際公約を実行せよ

アマモを食べるジュゴン click
写真:アマモを食べるジュゴン

 マーシュ教授の指摘によって、沖縄のジュゴンが極めて貴重な個体群であることが改めて確認できる。沖縄のジュゴン保護は、生物多様性の保全の観点から見れば、基地予定地だけの環境保全の問題ではなく、日本の国民が国際的な価値ある生物を守れるのかどうか、「世界に恥じない国」となれるかどうかが問われている問題である。

 また、東海岸辺野古沿岸の海草藻場の固有の価値という観点がつけ加えられた。教授の指摘で、なぜ東海岸に主にジュゴンが生息するのか、単に海草藻場があればよいという問題ではなく、他の海草藻場と比較調査し、ジュゴンの生息に適した特殊性(例えば海草の栄養価や繁茂の粗密度の比較)が東海岸の海草藻場にあることを究明する必要性が明らかになった。

 政府は九七年に海上基地予定地の環境調査で「海草を別の場所に移植する」などという所見を出していたが、それがまったく非科学的なでたらめであることが明らかになった。

 要するに科学的な環境影響アセスメントを実施すれば、辺野古沿岸域に基地建設など不可能であることがますます鮮明になるのだ。だからこそ政府は、基本計画策定前のアセスメントを拒み続けているのである。三月一日国会での質問に対して、川口環境大臣は「調査や環境影響評価は那覇防衛施設局が行う。環境省は必要に応じて適切に助言する」と答弁、環境省としての主体的なアセスメント実施を否定した。

 三月六日に開かれる代替施設協議会で予備的調査の結果が報告される。それがジュゴン保護にとってどれだけ価値ある調査であったか、保護の対策を具体化できたのかを専門家・NGOによる検証を踏まえて徹底的に追及しなければならない。七千万円もの経費をかけてまったく無駄な調査しかできなかったことが暴露されれば、政府はますます孤立する。追い詰められているのは政府であり、残された道は国際公約のすみやかな履行だけである。

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