2001年03月30日発行683号 ロゴ:なんでも診察室

【「薬害」ヤコブ病】

 三月十八日、多くのテレビニュースが「薬害」ヤコブ病被害者の追悼集会を取り上げました。この病気は、いわゆる狂牛病と同じで、物忘れ・視覚障害やふらつきが始まり、痴呆が急速に進み、数か月で無動・無言の状態となり、一〜二年で死亡します。原因はプリオンというタンパク質です。しかし、薬害ヤコブ病は、牛の肉を食べてではなく、ヤコブ病患者の脳を被っている「硬膜」の移植を受けたために発病したものです。

 一九九七年、大阪で薬の問題点を幅広く検討する「第一回医薬ビジランスセミナー」が開催されました。私は注射による筋肉の障害とアトピー性皮膚炎について報告しました。報告の後、ホッとして仲間と近くの食堂に入ったところ、同じセミナーで薬害ヤコブ病を報告された東京医科歯科大医学部助教授の片平洌彦(きよひこ)氏が一人でおられました。

 片平氏は薬害エイズ闘争の医学面を支えてこられた方で、私たちの抗痴呆薬批判などを好意的に受け止めてくれていましたので、席に押しかけさせてもらいました。私と違って、物静かで上品な科学者といった方です。私たちのとるにたりない話を静かに聞いておられましたが、ヤコブ病のことになると、とたんに興奮気味に次のように話してくれました。

 「すでに一九八七年、アメリカではヤコブ病が移らないようにアルカリ処理された硬膜に変更された。ところが日本では、このことが医療側にも知らされないまま、未処理の硬膜が一九九七年三月の回収命令まで使われていた。日本では四十六例(九九年には六十五例)が発病しているが、日本以外では十八例しか報告がない。これは明らかに第二のエイズ事件だ」

 井本里士著『薬害ヤコブ病』を読み直して見ますと、ヤコブ病の「世界的権威」の教授は厚生省擁護ための嘘をついています。逆に、片平氏は科学的な証言に徹しています。私のように一介の勤務医と違い別の大きな圧力がかかる大学の教員が、政府を向こうに回して科学的真実を表明する姿勢は、ジュゴン保護のために闘っておられる香村眞徳氏や粕谷俊雄氏などの学者の方々と同じなんだと今さらながら感動しているところです。

 なお、ヤコブ病は長い潜伏期があり、今後も発病が増える可能性があります。亡くなられた方のご冥福と裁判の完全勝利を祈るとともに、薬害を防ぐための活動を続ける決意を新たにした次第です。

     (筆者は小児科医)

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