2001年07月13日発行697号

【視角 / 欧州議会で問題「エシュロン」 / 地球規模の盗聴網】

 子どもが騒ぐ様子を「爆発したようだ」と電話口で話した主婦が「テロリスト」として登録された―こんな笑い話のような事例が載った報告書が欧州議会で大問題になっている。「エシュロン」調査報告書だ。

 「エシュロン」とは米・英・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの五か国の諜報機関が運営する地球規模の盗聴システムのことである。衛星を介して行われる国際電話やファックスはいうまでもなく、海底ケーブルや光ケーブルでも盗聴が可能である。インターネットやEメールなども含め、世界中を飛び交う通信のなかから毎分三百万通の速度で「核兵器」「暗殺」などあらかじめ登録されたキーワードを含んだ通信やマークした団体・個人の通信をチェックする。

 冒頭の例は、「爆弾」の単語に反応したシステムが、この母親を「テロ予備軍」として自動的に監視下に置いた実例である。

 一九四七年の英米協定に端を発する盗聴協力が「エシュロン」を生んだ。社会主義国に対するスパイ目的で出発した盗聴システムは、ソ連崩壊後も「国家の安全」を口実に強化されていった。

 公然の秘密である「エシュロン」が欧州議会で問題とされたのは、かやの外に置かれた仏や独の企業が米国企業に遅れをとる事例が増えたためだ。例えば、九四年。サウジアラビアの航空機受注競争で、欧州のエアバスは米ボーイング社に負けた。電話・ファックスを盗聴し、エアバス代理人の贈賄事実をつかんだ米情報機関の勝利だった。

 では、フランスやドイツが手をこまねいているのかといえばそうではない。仏版盗聴システムは「フレシュロン」と呼ばれている。

 各国入り乱れての熾烈な情報戦は資本のグローバル化に伴う弱肉強食の争いを一層激化させている。結局、欧州議会も独自の暗号システムや盗聴能力を向上させる方針を打ち出すという。

 そんな各国政府の駆け引きを傍観しているわけにはいかない。元カナダ情報部職員は「中国の穀物購入、フランスの武器輸出、グリーンピースの活動船に関する通信も傍受の対象だった」と語っている。企業機密を盗聴する能力の向上は、あらゆる運動団体や市民生活に対する監視力の強化を意味している。

 生前、ダイアナ妃に関する盗聴ファイルが暴露され話題となったが、監視される個人・団体は幅広い。そして何よりも「環境」「平和」「民主主義」などキーワードの設定一つで、あらゆる会話が分類・ファイルされ、追跡盗聴されるのである。グローバル資本主義はありとあらゆる人々の生活を丸ごと、そして地球的規模で監視している。

 盗聴法を成立させ、国民を監視下に置いている日本も全く例外ではない。三沢米軍基地には「エシュロン」の盗聴アンテナがそびえている。      (T)

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