2001年08月03日発行700号

【劉連仁強制連行裁判 国の戦後補償責任認定の画期的判決 解決引き延ばす国の控訴決定糾弾】

 戦中の強制連行と戦後の逃亡生活に対する国家賠償を求めた劉連仁裁判で、東京地裁(西岡清一郎裁判長)は七月十二日、国に対して二千万円の賠償金の支払いを命ずる判決を言い渡した。戦後補償運動の展望を切り開く画期的な判決だ。

強制連行を国策と認定

 東京地裁判決の特徴の第一は、強制連行が国策であったと認定し、その違法性を明らかにしたことだ。

 劉連仁さんは一九四四年九月、北海道の炭坑に強制連行された。一日三個のまんじゅうだけの食事、繰り返される暴行に「このままでは殺される」と山中に逃亡。野草や浜の昆布で命をつなぎ、「見つかれば殺される」と人目を避け、日本の敗戦も知らずに十三年間山野に隠れた。発見されて以降も悪夢に襲われ、心安まる日はなかった。

 東京地裁は、強制連行の直接の契機となった一九四二年の閣議決定「華人労務者内地移入に関する件」以降の中国人強制連行について、「国策として中国人労働者の日本内地への移入を決定し実行に移した」「その多くは本人の意思を無視した強制的なものであった」と明言。劉連仁さんの被害については「筆舌に尽くし難い過酷な体験を強いられた」と認定した。

国の違法性を明らかにする

 判決は事実認定にとどまらず「被告が降伏文書を調印したことで強制連行の目的が消滅し、当然の原状回復義務として強制連行された者に対し、これらの者を保護する一般的作為義務(注・ある行為を行う義務)を確定的に負ったものと認める」と述べた。

 違法行為のないところに、原状回復義務も賠償責任も存在しない。判決は、強制連行・強制労働を先行行為と位置付け、これにつながるものとして戦後の責任と原状回復義務を認めることによって、戦前・戦中の強制連行の違法性を明らかにした。

 そして、劉さんの逃亡が外務省報告などに記されていたことから「逃亡を余儀なくされ、生命・身体の安全が脅かされることを(国は)予測できた」「国が保護義務を怠ったことと劉連仁が被った被害の間には相当因果関係を肯定できる」と述べ、戦後の政府の責任放棄を断罪した。

 これまでの判決が事実認定さえせずに国を勝たせてきたのに対し、今回の判決は国策によって引き起こされた被害の事実を詳細に認定し、戦後の救済義務=補償責任を明確にした。原状回復義務が果たされなかったのは、劉連仁さんに対してだけではない。戦後長きにわたって何の救済もないまま放置されてきた点は、アジアのすべての戦争被害者に共通する。判決は他の戦後補償裁判を大きく励ますものとなる。

国に有利な除斥期間を排除

 第二の特徴は「除斥期間」の適用を排除したことだ。

 「除斥期間」とは、損害賠償請求事件において不法行為発生時から二十年で請求権を消滅させるというもの。戦後補償裁判では、請求却下の「理屈」として使われてきた。

 判決は、除斥期間を適用すれば劉さんの損害賠償請求権が失われること、その効果を受けるのが除斥期間の制度を作った国であることを考慮。国が保護義務を怠っただけでなく、劉さんの賠償要求に応じる機会があったにもかかわらずこれを無視したことを指弾した上で「このような被告にその責任を免れさせることは、被害の重大さを考えると正義公平の理念に著しく反する。国家として損害賠償に応ずることが条理にもかなう」と適用を排除した。

請求どおり二千万円の賠償命令

 従軍慰安婦を強制された韓国人女性への戦後の被害回復義務と不作為による損害賠償を初めて命じた山口地裁下関支部判決は、賠償額を一人あたり三十万円と著しく低く押さえた。

 今回の判決も、戦前・戦中の強制連行については国の責任を認めず、戦後の不作為への賠償責任のみ認めた。にもかかわらず、劉さんの被害に対する賠償は「二千万円を下回ることはない」と請求どおりの額を示し、実質的に被害を救済した。高橋弁護団長は「全部勝訴だ。ハンセン病判決に匹敵する」と評している。

 これまでの強制連行・強制労働裁判で、国の不法行為を認定したものは皆無。和解が成立したのは企業との間の事件であり、対政府は係争中だ。

 この判決が他の戦後補償裁判に与える影響の大きさを恐れ、政府は東京高裁に控訴した(7/23)。問題解決を引き延ばし、アジアの人々と敵対するこのような行為が許されるはずはない。

ホームページに戻る
Copyright FLAG of UNITY