2001年09月07日発行704号 ロゴ:なんでも診察室

【幼児虐待予防の道は】

 診察中に、おむつをはずしたとたん、ブリブリブリと「うんち」が飛んでくることがあります。お母さんは、うれしそうに「アラー」とかなんとか言って、ウエットティッシュでお尻をふきます。うんちが手につくのも気にしません。たまには、私がティッシュでふいても、見ているだけの人もいますが、どちらにしてもうんちが出たことでさえ、うれしそうです。

 また、入院した子どもの母親はほんとうに寝ずの看病をされます。障害児の親御さんが子どものために、自分たちの生活のほとんどを費やす姿には頭が下がります。

 日々こんな経験をしていましたので、今大きく報道されている子どもの虐待問題が学会で問題になり始めたころは身近なものとは感じられませんでした。しかし、何年か前より被害虐待児を直接見たり、主治医となったり、虐待の調査研究にほんの少し参加して、この問題の大きさを実感しているところです。

 もし、虐待が疑われた場合、まず児童相談所に連絡して、ケースワーカーに入ってもらいます。虐待なら、親に戻すか、施設に保護するか、親戚に預けるかなど決定します。ともかく、最も頼らざるを得ない親に虐待される子どもは本当に悲惨です。また、最も愛すべきわが子に虐待をせざるを得ない親にも強力な援助が必要です。

 医療は効果があるのでしょうか。虐待予防の研究が世界中でされています。先日、カナダの予防医学特別委員会が、これらの研究をくまなく検討した結果を発表していることを知りました。その中で、最も明白な効果があったのは、看護婦が妊娠中から二歳になるまで、貧困家庭の第一子、未婚の親と十代の親に対し、毎月一回家庭訪問するというものでした。十五年間の追跡調査の結果、訪問した方がしなかったグループに比べ虐待を半分に押さえられたのです。さらに、親がきちんと仕事をするようになり、アルコールやドラッグも減らしました。

 実は、この看護婦の家庭訪問は、日本では保健婦がしています。未熟児訪問など母子保健活動の方法に近いのです。保健婦の活動は、育児相談に加えて、近所の人とつきあうきっかけ作りなど、地域の人と人とのつながりを作ることにあると聞きます。母子保健の充実で虐待を減らせるのです。これが今、保健所合理化の中で危機に瀕しています。八月二十二日に報道された厚生労働省の教員ら経験者の家庭訪問のような付け焼刃でなく、実績のある保健所・保健婦の母子衛生活動の充実をすべきです。

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