八月十日、イスラエル・シャロン政権はパレスチナ自治区に対してF16戦闘機によるミサイル攻撃を開始、十四日には戦車など地上部隊が完全自治区(パレスチナ側が行政権・治安権を持つ)中心部深くに侵攻し警察施設を破壊した。パレスチナ側が「これは宣戦布告だ」(ラボ文化情報相)と語ったように、イスラエル側は六月に締結された停戦合意を完全に破壊した。**地図**
背景に大イスラエル主義
昨年九月から始まったパレスチナ民衆のインティファーダ(民衆蜂起)は十一か月目に入り、イスラエル軍の武力弾圧によるパレスチナ側の死者はすでに七百名を超えている。今年三月に発足したシャロン新政権は、パレスチナ自治政府施設への大規模な空爆・ミサイル攻撃など「パレスチナ暫定自治合意(オスロ合意)」(注)を踏みにじる軍事侵略を繰り返してきた。しかし、こうした軍事侵略は国際的な非難を生み、六月にはいったん停戦合意が実現した。
にもかかわらず、シャロン政権は執拗に自らが「テロリスト」と見なしたパレスチナ要人に対する暗殺作戦を継続、犠牲者は数十人にのぼっていた。シャロン政権は意図的な挑発と執拗な殺人テロの行使で停戦合意を破壊したのだ。
シャロン政権は、「自爆テロへの報復」を名目にこの大規模軍事攻撃を正当化しようとしている。
だが、今回の一連の攻撃の背景には、パレスチナ人の民族自決権を完全に否定するシャロン首相の「大イスラエル主義」構想がある。シャロンは今年初めの選挙戦で、占領地に入植をすすめ、エルサレムは(パレスチナ側の東エルサレムも含めて)首都として絶対に手放さないと主張した。「平和と領土の交換」というオスロ合意以降の和平交渉の前提を真向から否定する立場を表明してきた。
自治政府倒壊作戦
七月八日にはモファズ参謀総長が閣議に「パレスチナ自治政府を倒壊させ、アラファト議長を追放する作戦計画」を提出。同作戦では大規模テロに対して、「約一か月かけて武装パレスチナ人約四万人を殺害または武装解除する」としている(7/13日経)。
これはパレスチナ自治政府を破壊し、自治区の再占領を行おうとするものであり、和平合意の全面否定である。事実、八月に入りイスラエル軍自身が完全自治区への大規模な軍事攻撃を「攻撃型戦略への転換」として公然と認め、「繰り返し自治区に進入して自治政府機関を破壊」することを宣言している。今やイスラエルは、パレスチナ自治政府への全面的な軍事侵略・再占領へと踏み出そうとしているのだ。
そもそもシャロン首相は、八二年のイスラエル軍によるレバノン侵略時の国防相としてパレスチナ難民キャンプでの虐殺事件を引き起こした張本人である。今年六月にはベルギーで人道法により「戦争犯罪者」として刑事告訴されている人物だ。
衝突の根本的な原因は、入植地の拡大などによりパレスチナ和平の実現をサボタージュし続け、素手の民衆に対する武力弾圧を繰り返し、自治区の経済封鎖により民衆の生活を完全に破壊しているイスラエル側の政策にこそある。自治政府への攻撃や再占領というシャロンの侵略政策はパレスチナ民衆の怒りをますます激化させ紛争を拡大するだけだ。
侵略容認するブッシュ政権
こうしたシャロン政権のパレスチナ侵略を支えているのが、米ブッシュ政権による三月末国連安保理での国際停戦監視団派遣に対する拒否権行使であった。ブッシュ大統領は、八月末、南アフリカで開かれる国連人種差別撤廃会議にもイスラエル批判の議題を撤回しない限り欠席すると通告し、シャロン政権の軍事侵略擁護の露骨な姿勢を表明している。
シャロン政権のパレスチナ軍事侵略とブッシュ政権のイラスエル擁護を糾弾する国際世論を広げよう。
(注)オスロ合意
九三年八月に締結されたパレスチナ和平のための基本合意。「平和と領土の交換」を前提にイスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)が相互承認し、パレスチナ側が暫定自治を開始、その後自治地域を拡大し、占領地(ガザ地区とヨルダン側西岸)の最終的な地位を決定する交渉を行うことを内容とする。