2001年09月14日発行705号

【臨時国会にPKO法「改正」案 なぜ急ぐPKF凍結解除 戦争できる自衛隊の派兵へ】

 戦争国家づくりを進める小泉内閣は、秋の臨時国会に国連平和維持活動(PKO)法の「改正」案を提出しようとしている。国連平和維持軍(PKF)本体業務への参加凍結を解除し、あわせて隊員による武器使用基準も緩和する方針だ。その狙いは、集団的自衛権行使に道を開き、海外権益のためにいつでもどこへでも自衛隊派兵できるようにすることにある。

集団的自衛権に道開く

 九二年六月に成立したPKO法は、国際平和協力業務(第三条三号で規定)の一部について「別に法律で定める日まで、これを実施しない」と明記している。

凍結中の本体業務

 具体的には、停戦監視・武装解除の履行監視・緩衝地帯での駐留・放棄された武器の処分など、いわゆる「PKF本体業務」とされる業務がそれだ。これらの業務は対立する武装勢力の間に割って入って行うものであるため、国連平和維持軍兵士自身がいずれかの勢力との銃撃戦に巻き込まれて紛争の当事者になってしまう事態もありうる。

 これは、「国連軍の目的・任務が武力行使を伴うものであれば、自衛隊の参加は許されない」とする政府見解(八〇年十月)にも抵触する。

 参加凍結は、PKO法の成立にあたって内外の反対世論をかわし、公明党などの賛成を取り付けるための妥協案として盛り込まれたものだ。

 しかし小泉首相はこの五月、日本もPKOの実績をかなり積んだとして、国際平和協力本部や防衛庁などにPKF凍結解除の検討を指示していた。

武力行使の制約はずす

 政府はさらに、PKF凍結解除に伴い、PKO参加五原則も変更する考えだ。

 五原則は、(1)停戦合意の存在(2)紛争当事国の同意(3)中立的立場(4)以上のいずれかが満たされなくなった場合の部隊撤収(5)武器使用は要員の生命・身体を守る場合に限定、の五点で、こうした条件がない場合は自衛隊を派遣しないというもの。

 このうち武器使用については、かねてから自民党国防部会が、派遣隊員が携行する武器や他国の部隊も防御の対象にすることを求めていた。六月に国連副事務総長と会談した中谷防衛庁長官は、「現在の法律では自分の身や自国の隊員は守れても、他国の隊員を守れないのは、個人的に問題だと思う」と述べ、見直しを示唆していた。

 武力行使の確率が高くなるPKF本体業務に参加する以上、武力行使できる幅をあらかじめ広げておこうというのだ。

憲法違反のPKO参加

 そもそも現行のPKO法自体が、「武力による威嚇または武力の行使」や集団的自衛権行使を禁じた憲法に違反している。

 本来、国連平和維持活動(PKO)を担うのが平和維持軍(PKF)であり、本体業務と後方支援とが一体のものであることは軍事的常識であって二つを切り離すことなどできない。また国連文書「PKOのための標準作戦規定ガイドライン」では、「隊員は国連の司令官からの命令を受け、出身国の政府からは命令を受けない」とされており、停戦合意が破られたからといって日本の部隊(自衛隊)だけが戦線離脱するなどありえない。

 にもかかわらず宮沢内閣(当時)は、「参加五原則があるので憲法違反の状態にはならない」ということを、反対世論を押し切って法案成立を強行するための名目として使ったのだ。

 こうした歯止めをはずすことは、集団的自衛権行使に道を開くものだ。

東ティモール支援は口実

 いまPKF凍結解除や参加五原則見直しの動きが浮上してきた背景には、東ティモールPKOへの参加問題がある。

自衛隊派遣に意欲

 インドネシアからの独立過程にある東ティモールには現在、国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)があるが、八月三十日に行われた総選挙、そして来年三月の憲法制定議会発足を経て、軍事・警察・行政の三部門の新しいPKOが編成されることになっている。

 中谷防衛庁長官は先の国連副事務総長との会談で、「新たなPKOについて具体的な任務、規模などが明らかになった段階で、国連のニーズや現地の状況を踏まえつつ、可能性を検討したい」と東ティモール独立後に自衛隊を派遣することを示唆している。

 その際、中谷長官は凍結中のPKF本体業務への参加は「念頭に置いていない」と述べたが、臨時国会での法「改正」を受けてPKF参加を狙っているのは間違いない。現に、与党三党は八月三十日、臨時国会でPKO法を「改正」することで合意している。

 八月中旬にインドネシアを訪問した自民党の山崎幹事長は、現地での記者会見で「今は五原則がある。紛争当事国の同意の部分では(東ティモール紛争は)内乱だから、PKOを派遣する規定になっていない。武器使用にかかわる部分は活動の危険度にもよるが、現行規定では自衛隊を派遣できる客観情勢にない」と、五原則の見直しが必要との考えを表明した。後段は、自衛隊を東ティモールPKOに参加させるために武器使用にフリーハンドを与えるべきだと言っているのだ。まさに、法「改正」して、武力行使するために派兵するようなものだ。

目的は海外権益の確保

 政府・独占資本にとって、PKO派兵はどういう意味を持っているのか。

 自衛隊の派遣は、独立国家づくりを進める住民を支援するという口実で行われるに違いない。しかし、東ティモールを併合したインドネシアへの国連非難決議に日本は一貫して反対してきた。また、インドネシア軍に操られた武装テロ組織の住民虐殺に対しても、インドネシア政府に圧力をかけることすらしなかった。日本政府は、東ティモール住民の生命と安全ではなく、インドネシアの安定と日本の経済権益を守ることを優先してきたのだ。

 PKO派兵は常に、派兵する国や地域に対する発言力を確保し、将来の自国資本の市場進出の足がかりをつくるために行われる。それは、東ティモールでも変わりはない。

 東ティモールの南沖には海底油田があるといわれている。インドネシアによる東ティモール併合をいち早く承認したオーストラリアが今度は独立を支持し、多国籍軍やUNTAETに派遣してきた背景にもその海底油田開発問題がある。独立に貢献した見返りに、開発利権を獲得しようというのだ。そればかりではない。新しい国づくりに必要な物資輸出の主導権を握り、その経済を支配下に置くことを狙っている。

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 「人道」に名を借りたPKO派兵を許してはならない。ましてや、集団的自衛権行使に道を開くPKF凍結解除を認めるわけにはいかない。

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