盗聴法(通信傍受法)が施行されて一年がたつ。警察庁は今年度中をめどに、「仮メールボックス」と呼ばれる新しい「メール「盗聴」装置」の開発を始めた。
通信の秘密を侵害
盗聴法は、一昨年、国民統制と民主主義運動つぶしを狙う組織犯罪対策関連法として多くの反対を押し切って成立。昨年八月から施行された。
盗聴の対象は、無線機以外のすべての電気通信。家庭の電話や携帯電話・PHSを使ったものすべてだ。通話はもちろんファクシミリや電子メールも対象となっている。
令状さえ取ってしまえば警察の判断次第でいくらでも盗聴できるよう、きわめて広範なケースが想定されている。
まず、犯罪が起きる前から盗聴できる(事前盗聴)。また、「傍受すべき通信に該当するかどうか明らかでないものについては、傍受すべき通信に該当するかどうかを判断するため」に盗聴できる(予備的盗聴)。さらに、盗聴中に別件の犯罪に関する通信が行われた場合も盗聴できる(別件盗聴)。
この憲法違反の盗聴法を廃止する法案が、前国会にも提出されている。
警察のやりたい放題
あなたのメールものぞかれる
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今回、警察庁が調達しようとしているのは、パソコンや携帯電話などインターネットを経由する電子メールを盗聴する装置だ。すでに一億三千三百万円が予算化され、主要警察に十六台を配備するという。
電子メールは電話回線を通じて、インターネット接続業者が運用するメールサーバー(メールのやり取りに特化したコンピュータ)に送られ、相手方のコンピュータが引き出す(図)。現在可能な盗聴方法は、メールサーバー内に警察用のメールボックスを設け、対象者用のメールボックス宛てのメールを警察用にも送るというもの。振り分けの設定をするのは接続業者であり、警察には対象者用のメールしか届かない。
今回の「仮メールボックス」と呼ばれるコンピュータは、メールサーバーとインターネットの間に設置される。メールサーバーに届くすべてのメールが「仮メールボックス」を通過し、その中から、盗聴対象者が送受信するメールを選別しフロッピーディスクに保存するというものだ。そののちに、「仮メールボックス」で作成したフロッピーディスクのデータを別のパーソナルコンピュータに読み込ませ、不要なものを削除して刑事手続きのためのデータを作る。
いったんつなげば、盗聴対象のメールアドレスは接続業者の手を借りることなく警察自らの手で変更できる。その気になれば、やりたい放題となる。
一時間に二百万件
盗聴法そのものが、憲法で保障された通信の秘密を侵している。批判をかわすために条文上は、傍受令状に記載された、犯罪に関係すると疑われる通信についてのみ盗聴することができるとされていた。対象となる通信かどうかは、聞いてみなければわからない。それを口実に、該当性判断のために必要最小限必要な盗聴を認め、外国語や暗号などは即時に判断できないから全部盗聴することを「特例」として認めるとしてきた。
通話なら「試し聞きして違うなら記録をやめる」ということは理屈の上では可能だろうが、メールはそうはならない。ひとつのメールを「試し読み」するにも、そのメールを丸ごと記録しコンピュータにかけなければならず、結局すべてのメールがいったん記録されるということになる。特例だった「すべての盗聴」が、メールでは原則となってしまうのだ。
そして、いったん記録されたデータを複製・改ざん・データベース化することは、音声の録音テープと比べ物にならないほど容易だ。
盗聴先進国のアメリカでは、一時間に二百万件を盗聴するシステムが存在する。反グローバリズムのさまざまな運動がインターネットを介して情報を交換し、運動を広げている今、政府は国民一人ひとりの監視と管理を徹底しようと必死なのだ。