2001年09月28日発行707号 ロゴ:なんでも診察室

【多動性障害と治療】

 遠い昔、落ち着きのない従弟(いとこ)に「三分間じっとしていたら十円やる」とからかったことを、ふと思い出しました。十円取り損なった子も、今では子ども三人の立派な親父です。小児科を受診する中にもじっとしていない子は多いのですが、ほとんどは小学生になると落ち着きます。中には、診察中に外に走って行く子もいて、小学校の先生は大変だなあと思います。

 最近、逆に子どもが大変だと思うことが続きました。咳で受診された子の母親から、帰り際に「この子、多動だから養護学校に入るように言われたのですが、本当にそうでしょうか?」との質問です。小学低学年なりのきちんとした受け答えで、「落ち着きのなさ」などまったく感じさせない子で、家庭でも普通のふるまいだそうです。もう一人の子どもも、話をしたり行動を見ると、注意の欠陥や落ち着きのなさなど全く感じさせない子です。その子も「ADHD」と言われ、服薬していました。学童保育の先生は、彼のふるまいはまったく正常だと言います。

 この子たちがつけられた「ADHD」(注意欠陥・多動性障害)というのは、アメリカ精神医学会が一九八〇年に採用、九四年に改訂した診断基準による病名です。「しばしば綿密に注意することができない」などの不注意が六つ以上、「しばしば手足をそわそわ動かす」などの多動性と「しばしば順番を待つことが困難」などの衝動性の症状を六つ以上持ち、かつ家庭と学校などの二つ以上の状況で、著しい障害の明確な証拠があるというような条件つきです。ADHDの頻度は就学前後で、スウェーデン二%、アメリカ一四%、中国五・八%、イギリス一七%との調査(日本は不明)があります。症状のあるなしがあいまいなので大きな幅があります。それにしても、あまりの多さに驚きます。

 先ほど上げた子どもさんたちの症状は教室という場面だけであり「二か所以上で」という診断基準にも合いません。教室だけの症状なら、まず教室運営が評価の対象にならなければなりません。

 それでも、症状が大変強いと思われる場合は、家族と教員などが小児精神・神経医などと相談し、きちんと診断した上で治療を考慮すべきです。アメリカでは子どもの三%がリタリンという薬を飲んでいるそうです。これは七割の子どもに短期的効果がありますが長期の効果はわかっていません。他に、いくつかの薬も使われますが、薬は医療、家庭や学校などが全体的に働きかけをする中の一部として使用すべきものです。なによりも、家庭が納得いかない「対策」や服薬は許されません。

     (筆者は小児科医)

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