十月十三日の衆院テロ防止特別委員会で、飢餓に苦しむアフガニスタンの人々の実態について参考人として証言した医療NGOペシャワール会現地代表・中村哲医師の発言要旨を紹介する。多岐にわたる中村医師の発言のうち、日本の自衛隊派遣など援助のあり方にかかわる部分を中心に、編集部の責任で再構成した。
難民は出さない
アフガニスタンの人々は、大干ばつと報復爆撃で傷めに傷めつけられています。
私たちがもっとも恐れているのは飢餓です。
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(二〇〇〇年夏からの)世紀の大干ばつで、アフガニスタンの半分は砂漠化して壊滅するかもしれないと必死の思いで取り組んでいます。「がんばっていれば、必ず国際的に大きな援助がどーんと来るんだ」と思っていたのですが、やってきたのは国連制裁でした。ただでさえ少なかった外国の救援団体が次々と撤退し、アフガニスタンは孤立化の道を深めていきました。
被災者が千二百万人、四百万人が飢餓線上にあり、百万人が餓死するであろうという発表があったのは約一年半前。現在、首都カーブル(カブール)では、裕福な市民は二〜三割程度しか残っていない。あとは、干ばつにより逃れてきた人々です。
これらの人々は百〜百五十万人で、今支援しなければ一割が今年の冬を生きては越せないだろう、三〜四割は慢性的な飢餓状態で簡単な病気で死んでいくだろうという状態です。
私たちの緊急の炊き出しの準備は完了しました。私は日本に帰ってきて驚いた。難民が出てくるのを待っているのではないかと。ペシャワールには、いわゆる「難民」は今のところ発生していない。難民が出てからでは悲劇が大きくなります。
私たちは少なくとも、飢餓による難民は一人もペシャワールに出さないという決意で仕事をやっていく。私たちの行為に、政党の立場ではなく、一人の父親として一人の母親としてお考えになって、せめて、私たちの仕事を邪魔しないように、積極的に個人の資格で参加していただきたい。
あわてず頭を冷やして
自衛隊派遣が取りざたされているようだが、当地の事情を考えると有害無益です。
(防衛医官を派遣しても)あまり役に立たない。医者としての立場から言えば、言葉がわからない、どういうことでこの人たちが怒り、悲しみ、喜ぶのかがわからないという中で、医療行為というのは成り立ちません。現地には千六百人の失業したパキスタン人の医者がいて、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などは、こういう人々を吸収して現地で使っている。
「自衛隊」といっても、英語ではJapanese army。日本軍としか訳しようがない。軍事的プレゼンスは現地では、Japanese armyがAmerican armyに協力しているとしか見られない。
匿名で紹介するが「パキスタンは警察組織も、軍隊組織もあるれっきとした独立国家である。これを守るのはパキスタンの警察の仕事であろう。(自衛隊派遣は)日本の評判を落とす悪い冗談であろう」とあるパキスタン人は言っている。
現地の人たちには日本に対する信頼感がある。「あれだけつぶされたのに、戦後、日本は平和国家としてやってきた」というものだ。先輩たちが築いてきたその信頼感が、現実を基盤にしないディスカッションで、軍事的プレゼンスによって一挙に崩れ去るということがありえるわけです。
十分な情報が伝わっていない中で、観念的な論議が密室の中で進行しておるというのが偽らざる感想です。日本全体が情報コントロールともいえるような状況に置かれている。「無限の正義の米国」対「悪の根源タリバン」の闘いという図式で。
「顔が見える援助」は日本が直接支援物資を送ってやればよろしい。別に日本人が出かけていかなくてもいい。決してあわてなくてもいい。こういう時期こそ頭を冷やして、よく実情を見て、建設的事業を日本自らの手で組織することです。