2001年12月21日発行719号 ロゴ:なんでも診察室

【耳温計】

一か月健診のことです。「お母さん! この子、熱あるのとちがう?」という私に、「ありません」と断固とした答え。とうとう手の感覚も鈍ったのかと、看護婦さんに測ってもらうと三八・四度Cです。よく聞いてみますと、二〜三日前から機嫌が悪く、熱く感じたため熱を測ったのですが、三六度台だったので安心していたそうです。大変若いお母さんでもあり、体温の測り方を聞いてみますと、耳で測っていたとのことです。

 ともかく、生後三か月ごろまでの発熱には、細菌が全身にまわる「敗血症」などという大変恐い病気が、生後六か月以上と比べるとずっと多いのです。また発見が早ければ早いほど治しやすいので、早速血液検査をしました。結果は重症でしたので入院してもらいました。病気はおしっこに細菌が入る尿路感染症で、抗生物質の点滴注射で治りました。もう何日か放っておくと敗血症など大変危険な状態になる可能性大でした。

 最近、耳の穴の温度を測る体温計(以下、耳温計)が出回っています。ちょうど、ある育児雑誌から何か文章を書かないかという話もありましたので、この件について世界の研究を調べてみました。耳温計というのは、耳の穴の体温が出す赤外線を一瞬で測ります。じっとしていない子どもには重宝かも知れません。ほとんどの研究は効率を争う医療現場で、看護や育児のプロが測ったものでした。

 たくさんの研究が発表されていて、大変よく測れるというものもありました。この研究は、耳温計を作っている会社がスポンサーになっている場合が多いことに注意しなければなりません。しかし、うまく測れない場合が多いので良くないという外国の論文も出ていました。耳垢が詰まっていると〇・三から〇・五度低くなる、というものがありました。また、耳温計の計測では脇の下で三八度以上あった人の中の一〇・三%の人を見過ごすとか、正確な直腸計で測って三八度以上の人の一九・四%を見過ごすとか、さらに三八・五度以上の人の十人中四人を見過ごす、などという報告までありました。

 冒頭の例のように、明らかに発熱しているのにそれを見過ごすことは、赤ちゃんでは大変危険です。家庭では脇の下で測るか、より正確には直腸計や口腔内の温度を測るべきでしょう。体温計がないので何度かわかりません、という方には、「しっかりしてよねー」と言いたくなりますが、変な機器に頼るより母の手の方が大きな間違いがないのかも知れません。

     (筆者は小児科医)

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